「体験入学なんて・・・よくもまぁ認めたな・・・」

ボロボロになりながら蒼香が秋葉に話しかける。

しかし絶妙な間合いを取るのは忘れない。

左手はフリッカージャブ、そして足はいつでも蹴りを出せるようにどこぞのカンフー映画バリの足捌きを見せていた。

「兄さんの写真付き履歴書を提出したら、一発で入学許可を頂いたのよ。でも兄さんが泣いて嫌がるから仕方、なく・・・体験入学という形をっ、取っているだけなのよ」

常に攻撃を仕掛けるものの、鉄壁の攻撃兼防御によって阻まれ、攻撃できないでいた。

だが、しっかりとローキック等で相手を弱らせることは忘れてはいなかった。

「しかし、良いのか?その愛しの兄を置き去りにし―――早ッ!!」

『置き去り』という言葉と同時に秋葉は洒落にならない早さで正面玄関へと走り去っていた。

「は・・・生きてる・・・」

蒼香はその場に座り込み、足を伸ばして天を仰いだ。

「っ、ててて・・・」

擦り傷を押さえ、そのまま仰向けになった。

そしてその姿を偶然、志貴が見ていた。

 

 

「あそこまで苛めなくても・・・ああ、ひどいボロボロだな」

「いつもはあそこまで酷くはやり合わないんですけど・・・」

「蒼香ちゃん大丈夫かな、ちょっと見てくる」

「え?」

僕は周囲に人がいないか確かめて窓を開け、外に人がいないかも確かめる。

そして

「環さん、このことは内緒にしててね」

僕は人差し指を環さんの口元に軽く当ててちょっと悪戯をするように笑った。

「は、はい・・・」

環さんはとりあえず頷いてくれたので僕は窓から身を乗り出して

「あ、危ないですよ―――っ?!」

跳んだ。

位置的に階下の人達に見られない場所から跳んだのだから見ていたのは環さんだけのはず。

僕は着地の前に軽く壁を蹴って更に死角に向かって跳んだ。

そして着地。

落下の衝撃を足を曲げる動作でクッションにして体を傾けて真上から来る衝撃をずらす。

まぁ、たかだか二階だからそんなに仰々しくやらなくても良かったんだけど・・・

苦笑しながら立ち上がり、僕は蒼香ちゃんの元へと走った。

「蒼香ちゃん、大丈夫?」

「―――ん?・・・何だ。ああ、遠野の姉貴・・・ッと、兄貴か」

蒼香ちゃんは目を開けて僕を見るとそのままボーっと空を見ていた。

「ゴメンね、秋葉が暴れちゃって・・・」

「イヤ、アタシの方もあそこまで変っちまうとは思わなかったからな。暫くはこうやって日向ぼっこでもしてるさ」

蒼香ちゃんはそう言ってゆっくりと目を閉じる。

「そっか。蒼香ちゃんは友達思いなんだね」

「ブッッ!」

蒼香ちゃんが思いっきり噴いた。

「な・・・突然何を言い出すんだ!」

体を少し起こして反論しようとする蒼香ちゃんの頭を撫でる。

「良いから良いから。じゃあ、保健室に連れて行くから暫く目を瞑ってて」

「ぇ?」

僕は蒼香ちゃんを抱き上げた。

「ぅわっ、ちょっ、やめろって!!」

思いっきり慌てる蒼香ちゃん。

「大丈夫。見てる人はいないから」

「そうじゃなくても恥ずかしいだろ!」

「僕、あまり女の子の扱い知らないから」

「ぁ・・・」

僕が正直に謝ると蒼香ちゃんは小さい声をあげた後、顔を真っ赤にして大人しくなった。

「早く、連れてってく・・・ください」

「うんっ」

小声で蒼香ちゃんがそう言ったので僕は安心させるために蒼香ちゃんに微笑みかけて保健室へと急いだ。

 

 

「姫・・・羨ましすぎる・・・・・・」

環は二階からその光景を見て一人涙したのはまた別のお話―――