「――――――っぁ・・・・・・」

暗い寝室でアルクェイドが呻く。

何かを必死に耐えるように身を丸くし、苦悶の表情を浮かべていた。

「志貴・・・志貴ぃ・・・・・・っっ!!!!」

愛しい人物の名を叫び、次の瞬間に総ての力を失ったのか糸の切れた人形のようにベッドに伏し、力尽きた。

そしてアルクェイドの姿が消え、室内は静寂に包まれた。

 

流れに身を任せ―――

 

天気の良い日曜。

俺はのんびりとアルクェイドのマンションに向かっていた。

一昨日、日曜に食事を作りに行くと言った約束を守ろうと俺は商店街で買い物を済ませ、両手一杯の買い物袋を引っ提げている。

「流石に重いなぁ・・・」

何とか部屋の前まで来れた俺は買い物袋を床に置き、ドアフォンをならした。

「お〜いアルクェイド〜」

ドアフォンを数度押してみた。

しかし中からの反応はない。

「?」

とりあえず、ドアノブを捻ってみた。

カチャッ―――

開いた・・・

中を見るがカーテンも閉め切られている。

「いないのか?」

仕方なく買い物袋を持って中に入った。

と、

「?!」

中から気配がする。

「誰だ!!」

俺は買い物袋を床に置き、七夜のナイフを取り出し、気配を探る。

「人間!」

何か小さいモノが俺目掛けて走ってきた。

それは、とても小さな、女の子だった。

そして俺に向かって跳ぼうとしたその時、

ベシャッ

見事なまでに転んだ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ああ、もう何が何だか・・・・・・

女の子は倒れたままピクリとも動かない。

俺はその小さな女の子に近付き、抱き起こした。

「えっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

その子はどこかで見覚えがあった。

その大きさではない。

この子はもしや―――

「朱い・・・月?」

その瞳がじっと俺を見ている。

「ようやく気付いたか、人間」

俺を見つめたまま朱い月はそう言った。

涙目で鼻の頭が少し赤くなっているのはご愛敬だ。

「え、でも、その格好は・・・」

その姿は幼女。

レンとそんなに大差ない程の大きさで髪は腰まで伸びている。

でも目はあの時と同じだ。

だから分かったのかも知れない。

「何が起ったのかは知らぬが目覚めたらこうなっていた」

「目覚めたらって・・・」

「今はまだその時期ではないのだがな・・・それにこの身は何故か力がでない」

小さくため息を吐く朱い月。

「恐らく一時的に出てきたのだろう」と朱い月が言葉を付け加えたので俺は一応安心した。

「アルクェイドがいないなら仕方ないか・・・なぁ、飯、食べるか?」

「メシ?」

「ああ、食事だ。俺はそれを作りに来たんだけどな」

俺は買い物袋を拾い上げ、部屋にはいる。

暫く考えると俺を見てコクリと頷いた。

「フム、それは興味深いな」

朱い月はいつも通りのつもりかも知れない。

でも、その姿からそんなことを言われても―――

「どうした?」

流石に可愛いと言ったら何されるか分からなかったので言わなかった。

とりあえず買ってきた材料で何か作ってやろうと台所に立つ。

と、

「―――あの、ジッと見られるとやりにくいなぁ・・・と」

朱い月が後ろから俺の調理を立ったままジッと見ている。

「気にするな」

「イヤ、気にするなと言われても・・・」

思いっきりジッと見られてる・・・僅かな動作を見逃すまいと・・・

俺はその張りつめた空気の中、とりあえずチャーシュー麺を作っていた。

 

「はい、出来上がり。箸の使い方は―――」

「学習済みだ」

「そっか。じゃあ食べてみてくれ」

俺は箸を渡し、自分の分を手前に置く。

そして―――

ジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ

な、何かものすっごく見られてる・・・・・・

「え、えっと・・・戴きます・・・」

俺は気まずい思いをしながらチャーシュー麺を食べる。

すると朱い月は俺が食べ始めたのを見て恐る恐るだが同じように食べ始めた。

―――む?もしかして知識では知っているけど戸惑ってる?

俺がそんなことを思った矢先、

チュルッ

朱い月の頬に長ネギがチョコンと付いた。

「あ」

「?」

クンッと首を傾ける朱い月。

「ちょっと待っててね」

俺は朱い月の頬に付いている長ネギを取ってあげた。

「ぁ・・・」

急に顔を真っ赤にする朱い月。

可愛いなぁ・・・こんな妹なら大歓迎なのに・・・

まぁ、都子ちゃんも可愛いけどね。

そんなことを思いながら俺は付いた長ネギを食べた。

 

 

―――next?