月姫の話が終わった後で志貴が一人先生と出会った草原で満月の中一人で今までのことを思い返して一人黄昏れる話し。

 

先生は昔と同じように風と共に去っていった。

俺は息をゆっくりと吐き出し、そしてゆっくりと吸い込む。

冷たい空気が肺を満たす。

ドクン、ドクン───

脈打つ心臓の音が良く聞こえる。

生きている。

そう、それはとても幸せなことだ。

いつ死ぬか分からないこのポンコツな体。

そしてそんなポンコツな体に最強の魔眼とも言うべき直死の魔眼。

いつ暴発するか分からない拳銃のような状態をずっと維持してきた。

「良く今まで死ななかったよな・・・」

思わず呟く。

確かによくもまあ死ななかったものだ。

七夜の血に呑まれ、真祖の姫であるアルクェイドを一度殺し、

そのアルクェイドと共に死徒27祖の一人、ネロ・カオスに半死半生の体で何とか勝利し、

先輩からロアと間違われて命を狙われ、

命を共有していたロアに生命力の大半をゴッソリ奪われて生死の境を彷徨い、

反転した秋葉と命がけの兄弟げんかをし、

四季の体を乗っ取ったロアと死を見合い、

普通に生きていたら出会えないような者達とも出会った。

そして───別れもあった。

裏路地での死別。

クラスメイトの弓塚さん。

俺が夜出歩いているという噂を聞いて俺を捜していたらしい。

そして彼女は使徒に襲われ・・・彼女も死徒となった。

しかもその潜在的なポテンシャルのせいで物言わぬ死人ではなく自分の意志を持つ死徒になってしまった。

「───はぁ・・・」

思わずため息を吐いてしまった。

俺は彼女を裏切った。

その罪の意識が時折黒い霧となって心を覆う。

助けを求めていた。俺のことを思ってくれていた彼女は俺に本心をさらけ出して助けを求めた。

死徒となり人間には戻れないその悲しみから俺も死徒になって一緒にいて欲しいと言っていた。

一度は頷いたものの、首筋に牙を突き立てられる直前に秋葉のことを、遠野の屋敷のみんなのことを思いだし、決心が揺らいだ。

その時のあの顔を俺は一生忘れない。

悲しそうなあの顔・・・そして、感謝の言葉・・・・・・

本当の死を前にして彼女は悲しそうに微笑んでいた。

 

空気が一段と冷たくなった。

俺は草原に寝転がり、月を見る。

満月の光が草原を照らし、風が体温を奪う。

だけど不思議と温かく感じていた。

ゆっくりと今までのことを思い出していると死ぬ前に見るという走馬燈を連想してしまった。

まぁ、いつ死ぬか分からないのだから今から走馬燈の準備も良いかもしれない。

そんなことを考えていたら今度は今まで出会った人達が浮かんできた。

宗玄のじいさんや朱鷺恵さん。有彦、一子さん、有間家のみんな・・・

琥珀さんや翡翠。秋葉、四季・・・

アルクェイド、シエル先輩・・・そして先生。

みんな俺のことを優しく支えてくれた。

なんだかんだ言いながらもポンコツな体を生かしてくれたじいさん。

弟のように優しくしてくれた朱鷺恵さん。

馬鹿なことをやっていたけど俺という人間を内面から知っていた悪友。

俺が突然転がり込んできても快く泊めてくれた一子さん。

本当の家族のように俺を育ててくれた有間の家。

俺の心を支えてくれた白いリボンをくれた琥珀さん。

献身的に俺の世話をしてくれた翡翠。

厳しいことも言うけど心から俺のことを思ってくれていた秋葉。

ロアが支配していなければきっと良い兄貴だった四季。

殺した責任をとって貰うと言いながら無邪気に笑うアルクェイド。

ロアに体を乗っ取られている可能性があると知りながらも俺を殺さずに必死に治療手段を探してくれた先輩。

子供だった俺のことをまじめに聞いてくれて、魔眼殺しの眼鏡をくれた先生───

みんな優しくて―――みんなに支えられて―――

「まだ・・・死ねないな・・・・・・」

まだ死ぬわけにはいかない。

まだ死ねない。

このポンコツな体を騙してでもみんなのために生きなければならないんだ・・・

それが俺の心からの気持ち。

大丈夫―――まだ、動くから――――――

俺はゆっくりと沈んでいく意識の片隅でそう呟いた。