「―――俺ってマジで巻き込まれやすいなぁ」

志貴は周囲を見回しながらそう呟いた。

冷たい石造りの建物。

西洋建築技術の集大成とも言える造り。

そこは一度訪れた事のある場所だった。

「――――――夢であるように・・・って夢なんだよなぁ」

志貴は周囲を見回しながら深々とため息を吐く。

数分前までアルクェイドのマンションにいた志貴がこのような場所にいて良いはずがない。

瞬間移動なんて知らない。

そして志貴はこの場所を知っている。

―――つまりここは―――

「アルクェイドの奴・・・態と俺をここに引き込んだのか?」

ため息と共に愚痴る志貴。

その場所は一度訪れた。

夢の中で―――

「千年城ブリュンスタッド・・・だったよな。確か」

「その通りだ。人間」

カツンッ―――

乾いた音が辺りに響く。

「また来たのか」

背後から聞こえた声に志貴はゴクリと唾を飲む。

「殺さない?」

「来て早々殺されたいのならまた殺すが」

「いやぁ・・・それは勘弁だ」

志貴はホールドアップしながら振り返る。

そこに立っていたのは志貴の良く知る人物だった。

アルクェイドの姿をした人物―――アルクェイドであってアルクェイドではないモノ。

赤い月のブリュンスタッドだった。

「しかしなぁ・・・アルクェイド。いつもながら一人で寂しそうだな」

「寂しい?私はそのような事を思った事はないが」

「えー」

「・・・・・・形容しがたい残念そうともつかん顔は」

「呼んでくれたんじゃないの?」

志貴は赤い月の顔をのぞき込むように見る。

「ッ―――」

赤い月は顔を真っ赤にして志貴から顔を背ける。

「ほらほら、俺の目を見て答えてよ」

「断るッ!何故おぬしのような奴を直視しなければならぬのだ!」

「うあ・・・何か酷い事を言われた気がするぞ」

ガクリと膝をつき落ち込む志貴に赤い月は少しバツの悪そうな顔をする。

「―――人間。外の世界の事を少し聞かせてはくれぬか?」

「俺の名前、ちゃんと覚えてくれよ・・・」

「お主の固有名称などどうでも良いが・・・トオノシキよ、外の世界の事を教えてはくれぬか?」

「良いけど・・・突然どうしたの?」

「私はここから出られるのでな。外界との接点はトオノシキ、そなただけなのだ」

「ああ・・・御免」

「気にしてはいない」

赤い月は素っ気なく言うとクルリと踵を返す。

「?」

「ここで立ち話と言うのもつまらん。場所を変えるが・・・どこが良い?」

その台詞に志貴は首を傾げるがやがて思い出したように頷いた。

「そう言えば・・・ここって夢の中だよね」

「―――端的に言えばな」

「じゃあ公園が良い」

「分かった。奴の記憶の中にある公園だな」

ザアアッッ

瞬時に風景が変り、志貴の良く知る公園の噴水前だった。

「じゃあ――――――ほら」

志貴は手前のベンチに腰掛けると自分の膝を叩く。

「―――何のつもりだ?」

「さっきのお詫びだ」

「支離滅裂だぞ」

「膝枕。してみたくない?アルクェイドは大好きだぞ」

ポンッと志貴は自分の膝を叩く。

赤い月はしばらく固まっていたが、情報を得たのか急に顔を真っ赤にする。

「な、何故私がそのような事を!」

「え、だってアルクェイドは膝枕好きだし」

「私とアレは違う」

「うん。でもしてみたくない?」

志貴の問いかけに赤い月は再度固まる。

そして―――興味に負けた。

「物は試しと言うからな・・・」

そう言いながらノロノロと志貴の膝に頭を乗せ、ゴロリと横になる。

「むぅ・・・少し不便だな」

「まぁまぁ・・・髪、触っても良いか?」

「ああ・・・」

志貴は赤い月の髪を丁寧に梳く。

「・・・おまえは外に出られないから不便だよな・・・」

「そう思った事はない。しかし何時の日かアレも私に呑まれる事になる」

「ははは・・・何とか折り合いを付けてやってくれないか?」

「無理だ」

「む〜・・・俺がこうしていつも来てやるからさ」

「・・・・・・別に寂しいからと言うわけではない」

「じゃあデート」

「―――どうしてそう突拍子もない事を言うのだ?」

「さあ。思いついた事を言っただけだし」

「・・・変な奴だ」

それきり言葉を交わさぬままゆったりとした時間が過ぎる。

「―――そろそろ時間か・・・」

ボソリと赤い月が呟く。

「ン?・・・そうなのか?」

「ああ。アレが覚醒し始めている・・・安心しろ。今回は自然に消えるだろう」

「え?そうか・・・よかった。殺されるかと思ったよ」

ホッと一息吐く志貴の体がゆっくりと色を失っていく。

「じゃあな」

「――――言った事を・・・忘れるなよ、トオノシキ」

「え?」

「約束したろう?・・・また、来ると」

赤い月の台詞に志貴は微笑みながら頷いた。

 

 

「―――志貴!」

「んぁ・・・・何だよ」

強く揺さぶられ、志貴は強制的に覚醒させられた。

「志貴の浮気者〜っ」

「何だぁ!?」

突然言われた台詞に志貴は驚いて声の主を見る。

志貴が見たモノは子供のように拗ねながら怒っているアルクェイドだった。