休日の朝、志貴は朝食を終え、居間でのんびりと本を読んでいた。
手にしている本はハードカバーの分厚い専門書だったが、志貴はそれを黙々と読みふけっていた。
と、志貴の背後の窓に影が差す。
「志貴〜遊びに行こう〜〜」
バンッとドアを開け、アルクェイドが志貴に抱きついた。
「・・・読書中」
志貴は肩に顎を載せて本をのぞき込むアルクェイドににべもなくそう言い放つ。
「志貴難しそうな本読んでる・・・遊んでくれないの?」
寂しそうな顔で志貴を見るアルクェイドだったが志貴は
「読書中だ」
それだけ言うと再び本の中に視線を落とした。
「アルクェイドさん。兄さんの読書の邪魔ですから吸血鬼らしく暗い所で眠っていたらどうですか?」
「む?わたしはそこらの死徒と違うもん」
アルクェイドはムッとした顔で秋葉を見る。
同時に居間の扉が開かれ、シエルが入ってきた。
「そうです!アルクェイド。貴女は吸血鬼らしく日陰で草の汁でも吸っていてください」
「それは蚊だよ・・・ってシエル。貴女どうしてここにいるのよ!?」
「何故先輩を通したの!?」
シエルの後から入ってきた翡翠を睨み付ける秋葉だったが、
「志貴様の学業上の事で用があるとの事ですので」
翡翠は表情を消したまま機械的にそう告げると定位置に着いた。
「っ・・・では先輩。どのような用件でこちらに来られたのでしょうか?」
「はい。遠野くんの成績のうち英語が少し悪いとのことなのでこうして個人レッスンとアーパー吸血鬼の排除をしに来たのです」
「前者は要りません。後者だけにしてとっととこの屋敷から出ていってください」
「いえいえ、私は遠野くんの英語の担任から頼まれたのでそう言うわけにもいきません」
「あー!また暗示かけて無理矢理了承得たんだ!シエルおーぼー」
「だまらっしゃい双翅目カ科の親戚!」
「シエル・・・殺る気?」
ザワリと空気が揺れる。
「あらあら・・・みなさん落ち着いてお茶でも飲んでください」
「代行者も真祖の姫君も静かにしていただけませんか?」
そこにタイミング良く琥珀とシオンが入ってきた。
「隣の部屋で様子を伺っていたでしょ」
「当たり前です。貴女達がそこで暴れた日には志貴や部屋がズタズタになってしまいますから」
「何言ってるの。わたしが志貴をズタズタにするわけないでしょう」
「何も考えないアーパーと違って私はそんな酷いコトしません!」
「二人とも屋敷から出ていってください。そうすれば何事もない平和が訪れるのですから」
秋葉の厳しい物言いにアルクェイドとシエルが秋葉を睨む。
パタン―――
本を閉じる音がし、同時に志貴が立つ。
「志貴さん?」
「部屋―――」
志貴は琥珀の問いに対しぶっきらぼうに答えると本を持って居間を出た。
「―――怒ってしまわれたようですね」
「志貴・・・少し怖かった・・・」
「遠野くんがあそこまで機嫌を損ねるとは」
「兄さん・・・」
バツの悪そうな顔をする四人だったが、シオンと翡翠は壁の側に立ち、志貴の去ったドアを見ていた。
「・・・・・・」
「―――全員勘違いしているように思えます」
その台詞に四人は一斉にシオンを見る。
「志貴は貴女達に怒っているのではありません。志貴は―――」
「志貴様はご自分に対して怒りを感じておられるのです」
パタン
自室に引き上げた志貴はキチンと扉を閉めると深いため息を吐いた。
「――――――最低だ・・・」
志貴はポツリとそう呟き、ベッドにフラフラと向かう。
「みんな、俺のなんかの事気に入ってくれて、みんなわざわざ来てくれるし優しくしてくれるのに・・・」
ギュッとシーツを握り体を丸めるときつく目を閉じる。
「自分が情けないよ・・・みんなのこと好きなのにどうして恥ずかしいんだろう・・・・・・」
その表情は悲しみと後悔で満ち、目には涙が一杯に溜められていた。
しばらくの間枕に顔を埋めてジッとしていた志貴だったが、やがてノロノロと顔を上げると顔を洗うために部屋から出た。
モニターが壁一面に設置されている部屋に六人はいた。
「志貴・・・・・・」
「ッ・・・私達が至らないばかりに遠野くんがあんなに苦しんでいたなんて」
「す、好きだなんて・・・」
「はう〜志貴さんのあの顔・・・録画しておけば良かったです」
「好き・・・志貴様・・・」
「――――――っ!?・・・全意識が飛ぶなんて・・・」
六人が見ていたのは志貴の部屋に設置されていた音声付きの小型カメラであった。
志貴が部屋から出ていくのを確認した六人は互いの顔を見合わし、何か決意したように強く頷いた。
「「「「「「共有財産決定」」」」」」
同時に、一般の言淀みも間違いもなく全員がハモった。
そして全員スクラムを組むと、互いにその想いの強さを再確認し、かけ声も高らかに―――
志貴の元へと突入した。
それから数分も経たないうちに志貴の意志は陥落させられた。