ゆっくりと──────
ゆっくりと意識が覚醒していく。
温かい。
暖かい。
何故だろう───
俺は、あの月下の草原で意識を失ったはず───
俺は、死んだのだろうか───
だったら弓塚さんに会って、四季に会って──────
「もうすぐです。峠は越えましたが意識をしっかりと覚醒してくれなければ───」
「志貴!目を覚ましてよ!!」
あれ?・・・・・・俺、生きているのか?
「ッ────この馬鹿ッ!無理矢理起こせば今までの苦労が水の泡です!」
いっつも喧嘩ばかりだな・・・あまり常識を知らないアルクェイドに説教しても意味ないって自分で言ってたのにな・・・
「琥珀!翡翠!!」
何怒ってるんだよ秋葉は・・・
「いくら感応能力を使っても意識まではどうにも・・・」
「──────申し訳、ございません・・・」
二人とも辛そうな声だな・・・
起きあがろうとしたが何故か体が言う事を聞かない。
動けッ・・・動いてくれ・・・・・・
「兄さん・・・また私を置いて行くつもりですか・・・?」
秋葉の声が・・・とても近くに聞こえた。
「兄さん・・・もう、私を置いて行かないで・・・」
涙声―――秋葉はやっぱり泣き虫のままだな・・・
思わず苦笑してしまう。
しかし次の瞬間、その周囲に聞こえていた声が消えた。
―――これくらいで良いか―――
え?
―――遠野くん・・・志貴くんはまだ自分の重要さが分かってないよ・・・―――
なん・・・
―――ったく、これじゃ何のために俺達は殺されたんだよ―――
え?殺さ・・・れた?
―――あのね、志貴くん。わたし達は志貴くんに悲しんで欲しい訳じゃないの―――
―――俺達は悲しんで欲しいわけではない。忘れて欲しくないだけだ―――
もしかして・・・四季?弓塚さん!?
―――そんな事はどうだって良い。俺達はお前に生き残って欲しいんだよ―――
―――もうっ・・・素直じゃないんだね―――
―――うるせー。志貴、お前はみんなに愛されている。みんなに支えられているだから俺達の分生きてくれ。そして俺達の事を忘れるな―――
―――志貴くんが悲しいとわたし、どうして良いか分からなくなっちゃうんだよ?―――
弓塚さん・・・
―――わたし達の事を忘れないで欲しいだけなの―――
―――踏み越えた死骸の感触を忘れるなよ。そうすればお前は血に呑まれる事もなくなる―――
四季・・・二人とも・・・
―――なんて湿気た面してるんだよ・・・ったくよぉ。俺の次に良い男が台無しだぜ?―――
御免・・・二人の顔が見たかったけど・・・俺からは見えないよ・・・
―――そりゃそうだ。お前はまだ生きているからな―――
―――わたし達がここに引き留めているからだけど・・・御免ね志貴くん。わたし達の気持ちを伝えたかったからこんな荒っぽいコトしちゃった―――
二人の声が聞けただけでも嬉しいよ。
―――ったく・・・お前は真っ直ぐな良い男だよ―――
―――志貴くん・・・もっと自分を大切にしてね。寿命以外でこっちに来たら許さないんだから―――
うん・・・ありがとう四季、弓塚さん。
涙が溢れる。声が震える。
―――だから泣くなって・・・しょうがねぇ弟だな・・・ッと、時間だ。束の間の再会だったがそれもこれまでだ―――
四季・・・?
―――じゃあ、またね、志貴くん。わたし達、見守っているから!―――
弓塚さん!?
待って!二人とも―――――――――
「――――――ァ」
「兄さ・・・兄さん!」
「志貴〜〜〜〜っっ!!」
「良かった・・・本当に・・・」
「っ〜〜〜〜」
「・・・・・・・・・」
涙目で抱きついてくる秋葉。
泣きながら俺にひっつくアルクェイド。
眼鏡を外してそっと涙を拭う先輩。
目元を抑えて感情を必死に堪える琥珀さん。
俯き、俺に顔を見せないようにしている翡翠。
「御免―――みんな・・・・・・心配してくれてありがとう」
俺は出来る限りの笑顔でみんなを見た。