「う、うん・・・おねがいします」
僕は逃げ回る蒼香さんの武運を祈りながら羽居さんの後について寮の中に入った。
「あ、羽居先輩・・・ッと、初めまして」
寮にはいるとすぐに活発そうな女の子がやってきた。
「初めまして。遠野志貴と言います」
僕はそう言いながら相手に握手の意味合いで手を差し出した。
「遠野ッ!?・・・・・・・・・も、もしかして遠野先輩の、お姉さんですか!?」
「う〜〜ん・・・そんな所かなぁ・・・・・・で、君は秋葉のお友達?」
急にオドオドとしはじめた女の子に出来る限り優しく聞く。
「えっと・・・せ、瀬尾晶と言って、こっ、後輩で・・・・いつも可愛がって・・・・・・もらってますぅ」
「そっか・・・晶ちゃんって秋葉と仲良しだったんだ。これから宜しくね、晶ちゃん」
「はうっ・・・・・・わ、わたし・・・被弾しましたぁ・・・・・・」
真っ赤な顔でボソボソと言いながらそう言うと何故か倒れてしまった。
「あ〜あ・・・無理してたんだなぁ・・・顔真っ赤だし。羽居さん、医務室とかある?・・・羽居さん?」
僕は側にいた羽居さんに声を掛けた。
けれども羽居さんの返事はない。
「羽居・・・さん?」
「・・・・・・」
羽居さんも顔を真っ赤にしてボーっとしていた。
「あ、あの・・・羽居さん?」
イヤな予感がして僕は羽居さんの肩をトンと叩いた。
グラリ
羽居さんが大きく揺れた。
「!!!」
僕は慌てて羽居さんが倒れないように左手でその背中を支えた。
右腕には晶ちゃん、左腕には羽居さん。
動くに動けずどうしたらいいのか途方に暮れていた。
―――大声出したらかわいそうだし・・・・・・どうしよう・・・
半泣きの僕は僅かな救いを求めて玄関を見た。
秋葉と蒼香さんはどこにもいなかった。
「最悪だよぉ・・・・・・」
「どうかしましたか?―――羽居さん!?」
寮の奥から誰か来てくれた。
「良かった・・・申し訳ありませんが医務室まで運ぶの手伝っていただけませんか?」
僕はようやく現われた助けにホッと一息吐いた。
「分かったわ・・・で、貴女は誰なの?」
「僕は遠野秋葉の親族で遠野志貴と言います」
「あ、ああ・・・貴女が遠野さんのお姉さんね。わたしは環、っと・・・それよりも二人を運ばないと・・・遠野さんは三澤さんをお願いします」
「そうだね。ょっと・・・医務室はどっち?」
羽居さんを抱き上げて僕は辺りを見回す。
「!?こちらです」
環さんは驚いた顔で僕を見たけどすぐに晶ちゃんを背負って先に進んだ。
「―――ふぅ・・・ただの目眩か・・・二人とも元気だったのになぁ」
二人を医務室に運んで僕は一息吐いた。
「三澤さんが部屋の案内をしていたのですか?」
「うん。秋葉は蒼香さんを追いかけてどこかに行っちゃったから」
思わず苦笑してしまう僕に環さんは口元を僅かに緩めた。
「もし宜しければわたしが部屋までお連れしますが」
「あ、お願いできるかな・・・」
「はいっ、こちらですお姉さま」
環さんはニッコリと笑うと僕の手を引いて廊下を走り出した。