その空間は平穏と安らぎがあった。

天からは木漏れ日のような柔らかな日差し

耳に聞こえるのは遠くの小川のせせらぎ

そして肌を撫でる優しいそよ風・・・

確かにそれら全てが存在していた。

 

ただ、

 

常識外れたことが一つ

 

それは

 

そんな空間にも関わらずそこが部屋の一室だと言うこと――――――

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「んっ・・・・・・んぅ・・・・・・」

スウスウと寝息を立て、時折小さく声にならないような音を発しながら眠る少女がそこにいた。

そしてその少女の枕になっているのは一人の女性の膝だった。

「本当に可愛らしい寝顔ね・・・」

少女の長い髪を優しく梳きながらその女性は微笑を湛えながら呟いた。

「そうだな・・・・・・しかし、癖になっているだろう、それ」

女性のすぐ横にいたもう一人の女性が紫煙を燻らしながら呆れたように呟く。

「え?ああ・・・・・・そうね。なかなか手が放れないわ・・・あまりにも愛しくて。姉さんもそうでしょ?さっきずっとやっていたじゃない」

「そうだったな・・・まったく、志貴は人を殺すのが得意だな」

「そうね・・・でもその殺すにも幾つかの種類があるのよね」

髪を梳きながら妹がそう言って姉を見る。

「ほう」

「萌え殺す、悩殺、言葉で殺す」

「・・・・・・・・・どれも基本的に萌え殺すでは?」

「ああ、そうね」

今気付いたように納得した顔をする妹。

サァァァッッ

風が吹いた。

ザワザワザワッッ

木が風で揺れた。

「んにゅっ・・・・・・」

志貴と呼ばれた少女はモゾモゾと小さく動く。

「はふぅ・・・・・・」

仰向けから横に顔を向けたのだ。

「っ・・・・・・・・・」

少女は枕を抱き枕とでも思っているのか妹の腰に手を回した。

「はうっ・・・・・・」

「―――――――――羨ましい」

ボソリと呟く姉だったが、心の中では『アレを喰らえば二分ともたんな』と呟いていた。

「ね、姉さんヘルプ・・・・・・」

妹は真っ赤な顔で姉に助けを求める。

その表情は嬉しそうなのだが涙目、そして呼吸が荒かった。

「ああ・・・・・・感じているのか?」

「刺激、強すぎ・・・・・・」

ビクビクと奮える妹に姉はため息を吐くと志貴をそっと抱き上げ、妹を退かした。

「姉さん・・・志貴は強敵過ぎるわ・・・勝てない・・・・・・」

「そんなことは分かっている。しかし志貴に膝枕してやりたいのだ」

姉は穏やかな笑みを浮かべるとそっと志貴を下ろし、今度は自分の膝を枕にした。

「ん・・・・・・」

スリスリと変った枕の感触を確かめる志貴に姉はピクン、ピクンと反応する。

「っ、あ・・・・・・流石、志貴ね・・・・・・」

涙目で姉が呟くと妹がニヤリと笑う。

「―――キてる?」

「――――――ああ」

姉は顔を真っ赤にしながら頷き、優しく志貴の頬を撫でる。

風が再び吹き、志貴の艶やかな黒髪を揺らす。

そしてそれを姉は志貴を起こさぬように綺麗に梳いて整える。

それは平穏な一日だった。