そこは森の中。
鬱蒼とした木々の中、昼間だというのに明かりが満足に届いていなかった。
その森の中で一組の親子と思しき二人が居た。
二人とも木々の中を駆け回り、時には激しくぶつかり合う。
だが、そこは大人と子供。
そして力も技術の差も全てにおいて歴然としていた。
「今日の修練はここまでだ」
「・・・・・・・・・・・・」
少年は動かない。
「志貴、生きているか?」
志貴と呼ばれた少年は一度だけ小さく頷く。
「ならば良し」
それだけ言って男はそのまま去っていった。
「・・・・・・・・・はぁっ」
志貴はゆっくりと息を吐き、それ以上にゆっくりと息を吸う。
朝から行っていた修練で体はボロボロで動く事もできなかった。
グッタリとしていた志貴だったが、その体がピクリと動いた。
「・・・・・・・・・」
ヒタッ、ヒタッ・・・カサッ・・・
何かが近づいてくる足音がした。
その足音は人間のモノではなく、獣の足音だった。
「・・・・・・」
志貴は獣の来る方向をジッと見つめる。
やがて、獣が姿を現した。
茶色の毛並み、山犬のような外見。
しかしその姿はなかなか大きく、オオカミのようでもあった。
「・・・・・・・・・」
志貴はただジッとその獣を見つめ続ける。
獣も志貴をジッと見つめ、
カサッ、カサッ
一歩、また一歩とゆっくり近づいてきた。
志貴の手がゆっくりと動く。
獣の口元へその手が伸び、
スッ───
獣の顔を撫でた。
「グルルル・・・・・・」
獣は気持ちよさそうに志貴に撫でられていたが、何かを思いだしたように志貴の首もとに顔を近付ける。
すると志貴は顔を獣の方に向け、フッと息を吹きかけた。
「ぅぅぅっっ・・・」
獣はくすぐったそうに身を捩り、志貴を見る。
やがて
「フォフッ」
志貴の着ている服の襟をくわえ、グイグイと引っ張った。
困ったような顔で志貴は獣を見るが、獣はグイグイと襟を引っ張る。
「・・・分かったよ」
諦めたように志貴は呟き、獣の背に乗っかり、キュッと抱きしめた。
獣は満足気にのどを鳴らすと、先程男が去っていった方へとゆっくりと歩き始めた。
獣に背負われて帰る志貴はスウスウと寝息をたてていた。