「ぅ〜〜〜〜」

都子が小さく呻く。

兄である志貴を取り戻すために遠野の屋敷目指していたのだが、途中、その兄の気配を感じて公園に立ち寄ったのだ。

そしていたのは───兄の姿をした怖そうな人だった。

「ワイルドなお兄ちゃん・・・」

都子の頭の中は兄で埋め尽くされていた。

兄は何人いても良い。

そう結論づけた都子はその人物にコンタクトを取ることにした。

 

「ん?」

七夜は視界の端に幼子の姿を捉えた。

「アレは───有間都子・・・か」

しばし瞑目した後、七夜はニヤリと笑う。

「奴の前で有間都子を殺せば・・・楽しめそうだ」

ボソリと呟き、都子を見た瞬間、

ボスッ

「!!??」

七夜は見事なまでに都子に捕まった。

「くっ!」

慌てて逃げようとしたが、

「お兄ちゃん」

「なっ!?」

勘違いされていると気付くのに数秒の時間を要した。

「ワイルドなお兄ちゃん〜」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

―――なんか、良い響きだ・・・・・・

都子の台詞に僅かに顔がほころんだ。

「――――――ッ!」

精神攻撃から逃れようとする七夜だったが、

「酒饅頭・・・一緒に食べるの!」

振り放された都子は背負っていたリュックサックから紙の包みを取り出した。

そしてその包みを見た瞬間、

「!!!!」

ゴクリ、と喉が鳴った。

―――何故だ?俺はそのようなモノ知らないはずだ・・・・・・

必要以外の情報を得ていないはずの七夜の脳裏にそれの具体的な形状、味、匂いまでもが浮かんでは消えていく。

そして血の契約よりも情報の逆流による謎の衝動によって目先の酒饅頭を優先させた。

「――――――――――――――――――ありがとう、嬉しいよ」

七夜は酒饅頭によって陥落した。

 

 

「ッ・・・・・・俺の偽物がここにいるって言っていたのに・・・」

志貴が夜の道路を疾走する。

「落ち着きなさい、志貴」

その僅か後ろをアトラスの錬金術師・シオンが走る。

「落ち着いていられるか!・・・・・・小さい子と一緒にいるらしいんだよ・・・」

ギリリと歯を食いしばり、更にそのスピードを上げた。

「――――――見ず知らずの人間を心配するなんて・・・どこまでもお人好しですね」

シオンはため息混じりにそう呟くと自分も走るペースを速めた。

 

 

公園内に入り、辺りを見回すと目当ての人物はすぐに見つかった。

「見つけた・・・・・・って!?」

「ムッ?・・・こっちの桃マンもなかなか・・・」

「えへへ〜それはあたしが作ったもん」

「ほぉ・・・この粒餡の具合がいいな」

そこにはベンチに腰掛け、色々な饅頭を広げて食べている二人がいた。

しかもそのうち一人は聞いたとおりの小さい子・・・有間都子だった。

大声を出しかけた志貴だったが、あまりにも和気藹々としていたため、思い切り戦意が殺げていた。

「・・・・・・・・・・・・・・あの、もしもし?」

「むぐ・・・・・・酒饅頭もいけたがこの黒蜜寒天も・・・・・・良い嫁になれるな」

「えへへ・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・聞いちゃいねぇ・・・・・・」

「志貴、ここで―――――――――何しているんですか?」

「いや、何かとてつもなく和気藹々としているから・・・・・・」

志貴は苦笑しながらシオンを見る。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

シオンの視線は二人の手にしている和菓子に釘付けだった。

「あああああああ・・・・・・・アレが噂に聞いた黒蜜寒天・・・・・・」

『どこのどんな噂だよ・・・』と突っ込みたかった志貴だったが、洒落にならないほどギラついた目でそれを見ているシオンに圧倒されて突っ込めなかった。

「ん?・・・・・・・・・!?」

その視線にようやく気付いた七夜は初めにシオンを見てビクリと体を震わすものの、志貴を見て必死に冷静さを取り戻す。

「―――初めまして・・・かな?」

ニヤリと笑いながら立ち上がり、志貴を見る七夜。

「都子ちゃんをどうする気だ」

「どうもしないさ・・・和菓子を貰ったからな」

「・・・・・・・・・・・・・・・餌付け?」

「違う!」

キッパリ否定した七夜だったが、酒饅頭をしっかりと右手に持っているために説得力は皆無だった。

「あ、ワイルドじゃない方のお兄ちゃんだ」

都子がそう言って志貴にタックルしてきた。

「グフッ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・久しぶり・・・都子ちゃん」

強烈なタックルを喰らい、顔を引きつらせながらも何とか笑顔で都子の頭を撫でた。

「えへへ〜・・・・・・」

都子は幸せそうに志貴をギュッと抱きしめた。

 

 

 

 

――――――続く?