遠野志貴という人物を一言で言うとすれば
理解不能。
確かにその言葉が一番合っている。
しかし、朴念仁、鈍感、愚鈍など様々な言葉がピッタリ来ているのもまた事実である。
遠野志貴に付いてある程度情報を得た者はかなり悪い印象を持つのもまた事実であり、その印象は事女性に対しては最悪である。
埋葬機関第七位の代行者を籠絡した男。
真祖の姫を手込めにした男。
無類の女好き。
性癖はマジックガンナー譲り。
――――――最期の噂はすぐに消えてしまったが、兎も角、志貴の情報はそう言った方面で有名になっていた。
殺人狂とも言われているがその噂を消すほど女誑しという情報が強かったのだ。
しかし会ってみて分かること。
それは大人しく平凡な人間であり、どちらかというと被害者的な要素が強い。
事件に首を突っ込んでは重傷を負ったり、猫を助けようとして生死の境を彷徨ったりと何故かトラブルを呼びやすいのだ。
やはり理解不能という言葉が一番合っているのかも知れない。
それについて本人は自覚していない。
そこで一つの試みを行った。
「志貴、私が自分にとって理解不能な人物と付き合おうとした場合、私はまず何をすればよいのでしょうか」
日本語としては無茶苦茶な言い方だが志貴にはこれで通じるから便利だ。
「ん〜〜〜・・・・・・そうだな・・・まずは話しをして人となりを知るってのは?」
「その次はどうするのですか?」
「え?その次は・・・・・・その人物との距離を縮めて近くでその人物を理解するように努力する・・・かなぁ」
志貴は難しい顔でそう答えると私を見る。
「シオン、どうしたの?」
「いえ、今後志貴のような奇妙な人間が出てこないとも限りませんから」
「うわ・・・酷い言い草だな・・・・・・」
少し落ち込んでしまったようですね・・・・・・
「理解する努力をするのも良いけど、側にいたらその人の気持ちや考えが何となく分かるようになると思うよ?」
「何となく・・・ですか」
「そ、エーテライトを使わずに『ああ、この人はこんな事を考えている』とか『あ、この人はこうしたいんだな』とか・・・」
「難しいですね」
「そう?俺はシオンが今何を聞きたいのか何となく分かる気がするけど」
――――――え?
「シオンは今、俺との付き合いで俺をどのカテゴリーに入れて良いのか分からなくて困っているんだろ?」
「・・・・・・・・・はずれです」
根本的なモノはそうなのだが・・・やはり志貴は鈍感ですね。
「アレ・・・違ったか・・・ん〜まだシオンとの距離が遠いのかな・・・何となくそんな気がしたんだけどな」
――――――この人は本当は分かっているのでは!?
「――――――根元はそれに近いモノです」
「あ、やっぱり?じゃあ答え!」
「教えません」
「酷い・・・・・・」
「拗ねても駄目です。志貴が自分で理解することです」
「俺?」
「志貴が常に言われている言葉を思い出して考えてください」
私はそう言ってその場を離れる。
――――――まずい・・・ドキドキが止まらない・・・・・・このままでは吸血衝動が・・・・・・
「分かった!愚鈍!!」
背後で志貴が納得したような声をあげたが私は構わずにドアを閉めた。
今夜は眠れそうにない。
今気を抜けば吸血衝動に身を奪われそうで・・・怖い。
志貴があそこまで無防備だから困る。
私はこの地を離れなければならないのかも知れない。
志貴から離れれば志貴の無防備な姿を見ることもなく、志貴に心を奪われることもない。
―――しかしそう単純で良いのか?
思考の一つが問いかけてくる。
しかし私はその思考を停止させ、身支度を整えた。