当然と言えば当然で、やはりと言えばやはりだが、

志貴は有間の家に快く受け入れられた。

いや、猫可愛がりされていた。

夫婦揃って志貴を異常なまでに可愛がっていた。

いや・・・志貴の服の着替えまで夫婦の共同作業で行おうとする辺り変じゃない?

つーか志貴は一人で着替えられるって言ってるのに・・・そんなイヤらしい目で私の志貴を見るな!!

そして当たり前のように志貴は不安そうな目で有間の家の者達と接していた。

でもその顔は雨の中、寒さで震える子犬のよう・・・

無茶苦茶萌える顔だった。

二日くらいその姿をカメラに納めて私は計画を実行に移した。

───まぁ、付け加えておくなら、その二日で使用したフィルムは軽く500枚は越えていた。とだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

Trick or treat

 

 

 

 

 

「暇つぶしの仕事で戴いた金が結構あったのが幸いだったわ・・・」

隠し口座から金を引き出してすぐに目を付けていた空き家を即金で買い取った。

業者を雇って家の中を綺麗にしてもらい、適当に家具を買ってきた。

地下室もあり、そこを工房にする予定だ。

過去を清算するために姉貴の所に7〜8桁の金も送りつけておいた。

───まぁ、姉貴が私の邪魔をすることなんて無いだろうし、表に出てくることもないだろうけど・・・

すべての準備を終えて私はソファーに座った。

「さようなら、昨日までの私・・・」

外道と言われ人間的に最悪と言われていた私。

―――まぁそれは主に姉貴に言われていたけど・・・

しかし、今日からは志貴のためだけに良い先生、良いお姉さんになってみせる!

そして志貴はそんな私を見て───

「ぁぁ・・・そんな、駄目よ志貴・・・」

オウ、ちょっとどころか顔と耳が別物のように熱い。

少しのぼせて鼻血が出そうになった。

暫く深呼吸。

よし、少しは落ち着いた。

「さて!行動開始といきますか!」

パンと手を叩いて計画開始の銅鑼を鳴らした。

まず初めにすることは────

「再会の演出・・・かしら」

第一印象、あの別れの時までの私は良くできたと思う。

自分でも不思議に思うくらい『優しいお姉さん』っぽかったと思う。

「初めて見た時からあの子のことを気に入っていたって事かしら」

気に入ったと言うよりも一目惚れと言った方が正しい気もするが、どの時点で惚れたのかは分からない。

でも、あの汚れのない瞳で見られた時点で毒が抜けたのかも知れない。

「毒が抜けた・・・ねぇ」

椅子に座り溜め息を吐きながら窓の外を眺める。

庭と柵。そして道路が見える。

「こうやっていると年寄りみたいね・・・・・・・ん?」

視界の端に何か・・・・

「・・・・・・・・・・?」

チョコチョコと。

恐る恐る道路側からこちらを覗き見ようとしている子供。

その子供の背より僅かに高い柵と側に生えている庭木が邪魔でその子供の姿を見ることが出来ない。

子供は暫く立ち位置を変えて覗こうとしていた。

しかし、それが無理だと分かった子供は次に軽くジャンプし・・・・・・

「志貴?!」

その子供は今現在いかにして再会の演出をしようか考えている相手だった。