どこで変わってしまったのだろうか。
答えは簡単なものだった。
そう、彼は万物のモノを殺すことの出来る眼を保っている。
だからきっと、
志貴は私のある部分を殺したのだと思う・・・
それに気付いたのは別れたとき。
そしてすぐの再会。
それは余りにも必然的で、余りにも蠱惑的だった。
Trick or treat
蒼崎青子はその場所に立ち尽くしていた。
「どうして・・・」
その場所に来る予定はなかった。
しかし、そこに行かねばならない気がした。
そしてその場所に向かい、立ち尽くしていたのだった。
そこには、
その草原の切り株の根本には、
彼女にしては奇跡的に親身になって助言し、姉から魔眼封じを強奪し与えた少年が小さく丸まって寝ていた。
「───どう、して・・・」
青子は突如感じた眩暈を抑え、少年の元へ駆け寄った。
少年は死んだように眠っていた。
しかし、死んではいない。
ただ熟睡しているだけ。
「──────」
青子は少年を抱き上げ、切り株に座る。
そっと抱きしめ、しばし考える。
「・・・・・・持ち帰ろうかな・・・」
眠っている少年の前で不穏当な言葉が口から出た気がしたが青子は気にしない。
青子は少年の寝顔を見つめる。
穏やかな寝顔。
類い希な魔眼を保つ少年。
この少年がどのように成長するのか分からない。
世を儚み、殺人鬼となるか
魔眼を行使し過ぎて廃人となるか
捻くれた人間になるか・・・
───まともな将来が思い浮かばなかった。
「・・・・・・拙いわね・・・」
青子本人も少し引き気味だった。
そんな中、
「せん、せぇ・・・」
少年がそう呟き、青子の胸に顔を埋めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
数秒間、青子の思考が止まった。
そして、
「もう、志貴ったら・・・」
青子はポッと顔を赤らめ、少年をギュッと抱きしめる。
「こうなったら志貴を真っ直ぐな子に育てて・・・」
潤んだ瞳で妄想に浸る青子。
脳内では少年とバージンロードを歩いていた。
「──────志貴、私は君の見本にならなくちゃね・・・妻として」
青子はそう呟き、志貴の額にキスをした。
「っ・・・?」
少年が目を覚ました。
「ようやく起きたわね」
「え・・・せん、せい?」
少年はびっくりした顔で青子を見る。
「私に会いたくてここに来てたの?」
青子は優しい声で志貴に問う。
「───僕、今日から有間って人のおうちの子になるんだ・・・」
少年はポツリポツリとしゃべり出す。
そしてすべて話し終えたとき、
「───決めたわ。志貴、とりあえず君はその家に帰りなさい」
青子の台詞に少年は表情を曇らせる。
「話は最後まで聞く。───志貴、いい子にしていたら数日内にとても驚くようなことが起きるからおとなしくいい子にしていなさい」
「とても、おどろくこと?」
少年は首を傾げる。
「そ。だから今日は帰りなさい」
青子は志貴の頭を優しくなでる。
「───うん。先生、ありがとう」
少年はそう言って青子から離れる。
「いい子にしてるのよ、志貴」
ブンブンと手を振る少年に青子は穏やかな笑みを浮かべながら手を振り返す。
そして少年が見えなくなると、
「───さて、大急ぎで始めないと・・・」
ニンマリと笑い、青子は風と共に姿を消した。