「他の街も行ってみたい!」
我が侭なアルクェイドの台詞に志貴はハイハイと生返事をし、すぐに後悔した。
「さっそく行こう〜」
「ちょっ!ちょっと待て!俺は学校が・・・」
志貴の抵抗もむなしく二人は三咲町からどこというわけでもなく別の街へと旅だった。
「───で?ここはどこなんだ?」
「わたしが分かるわけないじゃない」
「ぅおい・・・・・・」
「だって・・・あの街にいたら志貴と二人っきりってことないじゃない・・・シエルが煩いし錬金術師も妹もいるし・・・」
シュンと項垂れるアルクェイドに志貴は大きなため息を吐いた。
「はぁ・・・いいか?アルクェイド。そんなことのために別の街に引っ張り回されていたんじゃ大変だって・・・」
「そんな事って・・・し、志貴が悪いんじゃない!誰も選ばないから・・・わたしを選んでくれれば丸く収まっていたのに!!」
「仕方ないじゃないか!みんな大事なんだから!!」
川沿いの歩道でギャイギャイ言い合う二人。
普通の人間が端からそれを見れば金髪美女と青年の痴話喧嘩だろう。
だが、そこを通りかかったのは普通の人間ではなく魔術師見習いとサーヴァントだった。
「な、何なんですかあの桁外れの魔力は・・・シロウ、わたしの後ろに下がっていてください」
「あ、あ・・・・・・」
アルクェイドから発せられる桁違いの魔力に思い切り顔を引きつらせる魔術師見習い、衛宮士郎とそのサーヴァントであるセイバー。
「あそこまで圧倒的な力の中でよくも平然としてられますね・・・」
周囲のことを考え、いざとなれば割って入ることをも辞さないと覚悟を決めるセイバーだったが、
「あったまきた!」
アルクェイドは戦闘態勢を取り、志貴はため息を吐く。
「はぁ・・・本気かよ」
「後悔させてあげるわ」
そしてダンッとアルクェイドが人には見えない程の早さで突進してきたとき、
「ったく・・・ていっ」
志貴は軽く身を返し、同時に腕を伸ばす。
「取った!」
踏み込んで攻撃を仕掛けようとしたアルクェイドの腕を取り、一気に引き寄せる。
「え!?きゃあっ・・・・んっっ」
志貴はアルクェイドを抱き留めるとそのまま唇を奪った。
「んっ──────っぷぁ・・・志貴・・・」
「少しは気が晴れたか?」
少し険しい表情で志貴はアルクェイドを見る。
「ン・・・御免ね、志貴・・・」
「偶には良いさ。人も殆ど見てなかったからし。さて、折角来たんだからここらを散策してみようか」
「うんっ!」
志貴の提案にアルクェイドは満面の笑みを浮かべ、志貴に抱きつく。
そして二人はそのまま新都の方へと向かっていった。
「・・・・・・凄かった・・・」
半ば呆然としていた士郎はようやく声を出す。
「ええ・・・あの踏み込みを読んで尚かつ捕まえるなんて、尋常じゃありません」
セイバーも険しい表情のまま、二人の去っていった先を見つめる。
「しかし・・・アレって痴話喧嘩って言うんだよなぁ・・・」
「え?」
「あんな痴話喧嘩だけはしたくないよなぁ・・・」
ギョッとするセイバーに気付くことなく士郎は呟く。
「し、シロウ・・・私は、その、あのような実力行使は勿論、シロウに対して不遜な態度は・・・その・・・」
顔を赤らめモジモジとするセイバーに士郎は自分の言った台詞を思い出し顔を真っ赤にする。
「いや、その・・・」
慌てて前言を撤回しようとする士郎にセイバーは表情を暗くする。
「シロウ。私は貴方の剣です・・・だから私は・・・」
「でも───少しは、嫉妬して欲しい、かな・・・」
「え?」
キョトンとした顔をするセイバーに士郎は耳まで真っ赤にする。
「ああもう!帰るぞセイバー!」
士郎はセイバーの手を取ると早足で家路につく。
「あ・・・・・・はいっ!」
手をしっかりと握られ、セイバーも顔を真っ赤にしながらも満面の笑みで頷き、共に家路についた。