爺さんは箸を使うのがうまい。
焼き魚定食を器用に食べきるとすぐにモニターに向かう。
うん。怖いから早く食べて出かけよう。
俺は手早く食事を済ませ、7000円をテーブルの上に置いて店を出た。
「恐らく店は10時過ぎないと開かないぞ」
「了解です。周辺散策も兼ねて行ってきます」
「ああ。イテラー」
すっごく絡み辛いキャラになってるなぁ・・・
俺はちょっぴり泣きそうになりながら部屋を出た。
異世界探訪〜ゼル爺といっしょ〜
店の人に俺だけ少し出かけるというと凄く不安そうな顔をされた。
一応お金は置いてあるし、教授(爺さん)はドルも持っているのでと言うと少しは安心した顔をしていたが、それでも不安そうだった。
────まぁ、いるだけでかなりプレッシャーを感じる人だからなぁ・・・
俺は店を出て散策を始めた。
時刻は午前8時。
学生の登校時間だ。うん。思いっきり登校時刻のようだ。
店を出てすぐに学生達の登校姿が目に付いた。
良いなぁ、学校。
爺さんに捕まらなければ俺も・・・
いや、今はそんな事を思うよりも情報収集だ。
情報端末で仕入れられる情報よりもリアルで得られる情報の方が重要だ。
あとできれば収入源も・・・
バイト出来そうなところとか────って、無理か。
俺や爺さんは住所不定無職だし。
昨日見たモンスターって倒したら何かもらえ・・・なかったよな。
RPGとかならもらえるのに・・・・現実は厳しいか。
俺はため息を吐きながら町を散策する。
「ここら辺の学生って個性的な人多いなぁ・・・」
そんな事を思いながら昨日の神社に向かう。
偶然手に入れた1万円。使ってしまったけど、一応向こうで拾ったものだし、多少は神社に還元しておこう。
本当に多少だけど・・・
がま口から100円を取り出し、賽銭箱に入れて手を合わせる。
「良いことがありますように・・・・早く帰れますように」
そうお願いした直後、
───ゴメン、無理。
・・・・・・・・何か聞こえた気がするけど、聞こえなかった。聞こえなかったよ、うん。
自分にそう言い聞かせながらおみくじの方へと向かう。
お金を入れ、おみくじを引く。
昨夜は大吉だから今日は吉かな?
そう思いながら見てみると・・・・・
大吉:ホントゴメン
「何が?」
いや、大吉なのにゴメンってなにさ!?
ザァァァッッ
昨日同様風が吹いた。
ピュッ
「!?」
何かが視界に飛び込んできたそれを俺は咄嗟に手で取った。
「─────また?」
手には1万円が握られていた。
「どんなシステムなんだろ・・・」
辺りを見回す。あ、境内の端の方におばあさんがいる。
「すみませーん」
「ん?どうかしたのかい?」
「あの、さっき境内で1万円拾ったんですけど・・・」
「ほぉ・・・境内で拾ったと?」
おばあさんは目を細めて1万円札を見る。
「はい。風が吹いて何か飛んできたので掴んだんですが、それが1万円札だったんです」
「ならお前さんが持っていても構わんだろう。きっと神様が下さった物だろうからね」
おばあさんはそう言って去っていってしまった。
「貰って・・・・いいのかなぁ・・・」
警察に行くわけにもいかないので暫く悩んだ末、一万円札を財布に入れた。
両替と買い物を終えた俺は散策する。
今日はモノレールに乗って少し先まで行ってみることにした。
「へぇ・・・」
駅を抜けると平日だというのに人で溢れていた。
4月の頭で平日。
にもかかわらず駅を出てすぐ横にある映画館は結構な人で賑わっているわけだから、ここら辺の人って暇人が多いのかな?
時刻は昼前。ちょっぴり小腹が空いているけど先のことを考えて今は少しでも節約節約。
階段を下り、広場へと向かう。
階段を下りて左側が映画館。右側には花屋と───何だか怪しげな通路がある。
うん。三咲町の裏路地よろしく危険がいっぱいなデンジャーランドだろうからパス。
意味もなく危険地帯に乗り込むのは勇気とは言わないのだ。
最近自分が巻き込まれやすい性格だと自覚し始めているだけに余計に突っ込みたくない。
「さて、何処に行こうかな・・・」
案内板らしきモノを見つけたのでそれを眺める。
学校にショッピングモールかぁ・・・む?ショッピングモールは少し遠いな・・・
学校はパスとして、ショッピングモールには行ってみる必要がある。
俺はショッピングモールの場所を確認し、急いでそこに向かうことにした。
急ぐ理由。
何となく爺さんが問題を起こしていそうな予感がしたからだ。
そのまま引き返せばいいかもしれないが、巻き込まれるのはゴメン被りたいので少し時間を潰すという意味でも探索をして戻った方が良いだろう。
────頑張れ店員。
心の中でそう言いながら俺はポロニアンモールへと向かった。
「この巻は先月に出ているはずだぞ?何故無いのだ?」
「いえですから・・・当店ではまだ入荷をしていないので」
「あの漫画は先週出た最新刊を置いているんじゃがな・・・1000円あれば事足りるじゃろ。本は寄贈してやるからとっとと買ってこい」
「っか、畏まりました!」
店員は千円札を握りしめ、半泣きで店を出ていった。