まあ一応暫く滞在というのが明後日までと言うのは助かったと言えば助かった。

数日なら特に出費も問題もないだろうし。

ホッと一息吐きながらレシートを見る。

軽く食べてネットカフェでの出費を極力落とそうとしているだけに残高と睨めっこというのは常にしなければ─────

 

 

 

 

 

異世界探訪〜ゼル爺といっしょ〜

 

 

 

 

 

「・・・・教授、今年、2009年でしたか?」

「まあそんな事もあるじゃろうな」

当たり前のようにそう言いきったよこの人。

「2009年って、未来ですよ、未来」

「そうとは限らぬ。紀年法だとすればこの世界の過去、その基点となった人物の生年が9年前にズレていれば今年は2009年じゃし、後ならば2000年じゃ」

シーチキンマヨネーズおにぎりを食べながら言われても説得力はないけど、考えてみればそうだ。

世界が違うから自分の世界の物差しで測っても意味はない。

「基本的にここは平行次元の異世界であって時間軸は同じはず。時間軸まで移動するのはまた別の魔法じゃよ」

「分かりました。これは知識として仕入れておく程度にしておきます」

「良い適応力だ」

爺さんは2個目のおにぎりを食べ終わると立ち上がった。

「行くぞ」

「あ、はい」

弁当を片付けてコンビニを出た。

 

 

「ネットカフェならば情報を大量に仕入れられる。少なくとも社会情勢や基礎知識は抑えておけ」

店内に入って一番奥の個室に入ると爺さんはすぐに漫画に手を伸ばした。

しかももてるだけ纏めて取ったよ・・・・

「2時間交替でパソコンを使うって事で・・・志貴が先に使え」

「了解しました」

俺はパソコンを立ち上げ、検索サイトにアクセスした。

「ああ、それと」

「はい?」

「この漫画、23巻で完結なのかも調べてくれ」

突っ込み所満載だなぁ・・・

「ここは突っ込んだ方が良いですか?」

「いや、何となくじゃ」

「了解─────正確には24巻ですね。0巻があるようです」

「むぅ・・・店員に聞いてみるか」

爺さん、何の情報を得ようとしているんだ・・・・

部屋を出た爺さんは放っておくとして、俺はすぐに思いつく項目を打ち込んで情報を漁った。

────うん。基本的にたいして変わらない世界みたいだ。

ただ、三咲町はなかったし、遠野グループも存在しなかった。

レシートに書かれていた店名から地域を特定し、この地域の情報も得た。

継いでの近くのホテルの情報も探したけど・・・・ビジネスホテルも少し高かった。

「そろそろ時間か」

爺さんが漫画を読み終わったのか立ち上がる。

ちょうど2時間。

俺は席を退き、後ろのソファーに座って置かれている漫画を手に取る。

ついでにウーロン茶を注文しておこうかな。

「教授、何か飲みますか?」

「緑茶」

─────マジデスカ?

「・・・・分かりました。熱いやつですか?」

「いや、冷たいやつを頼む・・・・出来ればきちんとしたメーカーの茶が良い」

多分本気だ。

この爺さん、日本かぶれだ!

と、もの凄いタイピング音とマウスのクリック音がした。

「青いのぉ・・・・技術力は同じか」

もう、突っ込まないでおこう。

俺は注文をし、漫画を読むのに没頭した。

 

 

「志貴、起きろ」

「────ぅあ?」

爺さんに揺すり起こされた。

「朝食はトーストで良いか?」

「あ、えっと・・・できれば和食で」

「焼き魚定食が良いか・・・」

爺さんはそう言うと焼き魚定食を二つ注文した。

「この世界はなかなか面白い。必要な情報は仕入れたし、もう少し長居したいのぉ」

「勘弁してください・・・・あまり長居しすぎると俺の生活にもの凄い影響がでます・・・」

「学校なら第七司教が何とかしてくれるはずじゃ。一週間くらい羽を伸ばしても罰は当たらぬ」

うわぁ・・・三泊四日が一週間に延びてるよ。このままいくと一ヶ月とか延びそうだ。

でも、俺一人で帰る事は出来ないからなぁ・・・

ぶっ続けでネット検索とかしている爺さんはやはり化け物だと思う。

魔術師だけに知識欲は旺盛なんだn────

「管理者キター!」

イマ、ナント?

ゼルレッチさんが忙しなく動き始めた。

「志貴よ、儂は今日はここから動かぬ。情報収集ヨロ」

「え?」

「ああ、ついでに日本円に両替してきてくれ」

そう言って振り向きもせずに爺さんは俺に財布を投げた。

「うあ・・・ドルも入っていたんだ」

俺は財布から200ドルと500ユーロ取り出す。

「それと、せめて5000円は置いていってくれ。この店でドルが使えるかどうか聞いていなかったのでな」

「了解。俺は小銭だけで良いので7000円程置いておきますね」

「あと、両替がすんだら買い物を頼む。着替えは後ででも構わんが、データを記録する────ああ、USBメモリがあれば買ってきてくれ」

「それって、何ですか?」

「パソコン専門店でUSBメモリ下さいと言えばいい。容量は大きい方が良い」

爺さん、俺は貴方が何を言っているのかサッパリですが・・・

とりあえずメモ帳に『USBメモリ・容量多め』と書くと、ドアがノックされて朝食が運ばれてきた。