あれから敵は襲ってこなかったが、暫くすると空気が急に変わって棺桶が人になった。

また、停電状態だった街もすべて何事もなかったように通電している。

「なんなんだ・・・」

「ふむ、愉快な所じゃな・・・ここがどのような場所なのか調べる必要もある。暫く滞在するぞ」

爺さん、本気ですか?

あ、一つ心配事が消えた。

ここの町の人、全員日本語で喋っていた。

 

 

 

 

 

異世界探訪〜ゼル爺といっしょ〜

 

 

 

 

 

「泊まるところもないし・・・どうします?」

「今日は野宿でもしておこう・・が、その前に街を散策しておいた方が良いな。夜の街は色々良い情報やモノが手に入るぞ」

「・・・手慣れてますね」

「伊達に旅はしておらぬよ」

爺さんはフッと笑うと歩き出した。

「あ、そう言えば・・・呼び方は教授で宜しいですか?」

教授というと何故か頭の中に某混沌使いが出てきたのは秘密だ。

「教授か・・・ふむ、悪くない。儂としては爺さんと呼ばれても構わんが」

「心の中でそう呼ばせて貰います」

俺がそう言うと爺さんは愉快そうに笑った。

「ナイスだ志貴。儂が見込んだだけはある」

そう言って爺さんは俺の背中をバンバン叩く。

凄く痛いんですけど・・・・

ジンジンと痺れるような熱いような感覚に耐えながら爺さんの後を歩く。

「ところで、何処に向かっているんですか?」

「知らん。適当に歩き回っているだけじゃ」

「・・・まぁ、確かに初めて来たところですから知るわけないですね」

当たり前と言えば当たり前だけど、そんな自信たっぷりに歩かれたら目的地があると勘違いしてしまうんですけど・・・

「どこか休める場所は考えられんか」

「あー・・・公園や、神社、寺とかなら多少は休めると思いますけど・・・管理人に見つかったら拙いですね。公園が一番お勧めかも知れません」

「今夜だけだ。いっそのこと、どこかの家に入って暗示を掛けて休むか・・・」

「それは拙いですって・・・」

突っ込みを入れたものの、雨が降ったらそれも仕方ないかなと思ってしまった。

暫く歩いていると、神社が見えた。

「お、神社とあるが・・・・」

「誰かが住んでいるような形跡はありませんね」

石段を登り境内に入る。

「ふむ・・・ベンチがあるか。ここなら軽い休憩が出来るな」

爺さんはそう言って神社の端にあったベンチへと向かう。

俺はと言うと、一応神社に来た訳だし、厄介になるのだから賽銭くらい入れないといけないかなと思い、賽銭箱に100円玉を放った。

「すみません、暫くご厄介になります」

手を合わせて祈る。と、おみくじが目に付いた。

「こんな時間に置かれているなんて・・・・不用心だな」

そう言いながらも俺はおみくじの所に行き、金を入れておみくじを引いた。

『大吉』

───まぁ、大吉の割合が多いから大吉が出てもそんなに驚かない。

連続大凶記録は異世界では無効なんだろうね。

大凶って実は大メデタイって意味なんだよ?って慰めも必要ないからイイ感じだ。

「金運が良いんだ・・・」

よかった。大吉でも金運によくない事が書かれてあるときがあるからなぁ・・・って、この世界で金運が良いって何だろう。

ザァァッッ

突風が吹いた。

「うわっ!?」

何かが視界を遮る。

俺はそれを手で掴み・・・・!?

それは一万円札だった。

「うっわ即物的な御利益だ・・・」

この世界に来て初めて手にするお金はとてもありがたい。

元の世界でも一万円なんて滅多に手にする事はなかったけど・・・

「どうかしたか」

爺さんが境内を一回りしたのかこちらにやってきた。

「風で飛ばされてきたお金を拾ったんです・・・一万円も」

「ほう、安宿なら一泊出来るな」

「でも、交番に届けた方が良いと思いますよ。大金ですし、無くした人も困っているんじゃないかと」

「交番に行って遺失物の届けを行ったとして、だ。儂等は住所不定で警官に問われれば拙い立場の人間じゃぞ?

それに風に飛ばされて拾ったものなら相手が落とした場所とは無縁じゃろうて」

「それもそうですね。ありがたく頂きましょう」

俺はがま口の中に一万円札を折り畳んで入れた。

「となると今夜はここではなくどこか食事の出来るところを探すか」

そう言えば食事もしていない。

しかし、問題が一つ。

こんな時間に開いている店があるかだ。

「最悪、食事はコンビニですかね・・・・」

「コンビニエンスストアもなかなか侮れないぞ」

爺さんはそう言って境内を出ていった。

 

 

「本当にコンビニでの食事になっちゃった・・・」

「まあ良いではないか。夜を過ごす場所も確定したしな」

店内に設置されていた飲食用のカウンターで暖めた弁当を食べる。

夜を過ごす場所が確定したというのは、この後行く場所が決まっていると言う事だ。

ただ、ホテルとかではなく、ネットカフェで一晩過ごすという何ともダラダラした夜を過ごすつもりだ。

爺さんがはしゃいでいるのは多分気のせいだ。

横でおにぎりを楽しそうに食べている段階で愉快な爺さん確定なんだけど・・・

黙々と弁当を食べながら今後の事を考える。

流石に長居する訳には行かない。

早くこの世界から元の世界に戻らないと怖い事になる。

一泊二日、最悪でも三泊四日なら大丈夫かも知れないが、それを越えるとちょっと洒落にならない事になる。

学校は?とかそんなレベルではなく命が危うい。

「あの、教授」

「ん?なんじゃ?」

「いえ、いつ元の場所に帰れるんでしょうか」

「問題がなければ明後日にでも戻るぞ・・・」

問題がなければ。

もの凄く不安になってきた。