先生、

 

先生もそうなんですか?

 

面白そうだからと言って、人を大変なことに巻き込むようなタイプの人なんですか?

 

「あーあ奴は明らかにそうじゃな」

 

「お願いですから心の中を読まないでください!」

 

俺、遠野志貴は魔道元帥って人に捕まってあっちこっち旅してます。

 

世界各国とかなら面白いかも知れないけど・・・・ケタが違った。

 

旅行先は常に異世界でした。

 

「お主と行く平行世界はいつもと違うから面白い」

 

「俺は平穏な生活が・・・・」

 

「あー・・・・・無理じゃ。諦めろ」

 

なんでこんなタイプに気に入られるんだろう・・・胃が、痛い・・・・

 

 

 

 

 

異世界探訪〜ゼル爺といっしょ〜

 

 

 

 

 

「・・・で、何処ですかここは!」

「はっはっは・・・知らん。お主を連れて行くことばかり考えて何処に行くかは考えて無かったからな」

日本のどこかの都市で今が夜だというのは分かる。が、街にいるはずの人はなく代わりに月明かりの下には無数の棺が立っていた。

事の起こりはこのトンデモナイ爺さんの一言から始まった。

「アルクェイドを守るならもっと広い視野を持たんとなぁ」

「いや、アルクェイドを守る必要があると?」

「む、お主はボーイフレンドじゃないのか?」

「男友達だとは思いますが・・・アルクェイドも俺にそんな感情は抱いていないと思いますよ?」

「・・・・・訂正しよう。お主は広い視野を持ち、尚かつ相手が自分に向けている想いが如何なるモノか知る能力を身につけねばならんようじゃな」

「─────今の科白は、俺が朴念仁とか言われていることに関係しますか?」

「分かっておるなら・・・・・・言われておるのか?」

「よく分かりませんが、知り合いに色々言われてます」

「うむ!ナイス女誑し!」

「違います!!」

「いやいや・・・気に入った!よし、すぐにでも儂と共に視野を広げ、彼を知り、己を知る訓練の旅に出ようではないか!」

「ちょっ、そんな急に!出るなら書き置きくらいは」

「心配無用!黙って出るから良いんじゃ」

「お断りします!」

「逃がすかぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

「本当に、何処でしょうかね・・・・」

こんな町中なのに街灯や信号を含めて電気がまったく通じていない。

幸い満月に近いのか月が街中を優しく照らしていた。

「少なくとも死都ではないじゃろうな」

不思議な光景だけど、敵の気配も感じられない。

「そう言えば俺、ロクにお金持ってませんよ?」

「スルーか。儂はユーロしか持っておらぬが」

爺さんはそう言いながら財布を開いて結構なユーロの束を見せてくれた。

恐ろしい程金持ちなんですけど・・・・俺の財布の中は砂漠のように乾いているんですけど・・・

目の毒だ。猛毒だ。特に財布の中に札のない俺には辛い。

「そうですね・・・それを両替出来る場所があったらいいですね・・・あ、でも言葉が通じれば住み込みのアルバイトを探し・・・」

「連れてきたのは儂じゃからこれが使えればこれを使えばよい」

「え?良いんですか?」

「ああ・・・お主に平穏があるとは思えんからな・・・これくらいはしてやらんとな」

爺さんはニヤリと笑うと歩き出した。

「何処にですか?」

「人を捜しにじゃ・・・・人の気配は微かながらあるのでな」

「って・・・何か変なのが来ますけど?」

「みたいじゃな・・・おお、お主のその眼が機能するか確かめるには絶好じゃな」

この眼はそう簡単に使いたくないんですけど・・・

俺はため息を吐いて眼鏡を外した。

「グッ────」

ズクンと頭痛がし、視界が歪む。

そこは通常以上に死が満ちていた。

「拙い・・・」

俺はすぐに眼鏡を掛けなおした。

「どうした?」

「この空間、通常より死が近い世界です」

「そうか・・・ならあれはどう対処する?」

「勿論・・・これで」

ナイフを取り出し、向かってくるモノに対して構えた。

ザッッ

接近してきたそれは俺達の前で止まる。

仮面を着けた黒いスライム。そう表現するしかなかった。

「近付いても大丈夫ですかね?」

「さてな・・・」

「確かめてみます」

俺は道の端にあった栄養剤のビンらしきものを拾ってそれに向かって投げる。

ベシャッそれはビンにぶつかり、怯む。

「充分のようです」

それだけ言うとおれはそのスライムに向かって一気に間合いを詰める。

「斬ッ」

スライムに刃を突き立て、切り裂く。

ボシュゥッ

そんな音と共にスライムは消滅した。

「なんだったんだろう・・・・」

消えたその場所を見詰めて呟く俺の肩を爺さんはポンと軽く叩く。

「お主といると退屈しないようじゃな」

爺さんが何か呟いたけど、何を言ったのかまでは聞こえなかった。