「入るなと言われれば入りたくなるのよね・・・でも、嫌われたくないし・・・」

キャスターは謀略や策略に使う知能を駆使して打開策を考える。

そして数秒後にとんでもない案を出した。

「入らないけど覗くのは構わないわけよね」

そう呟くと水晶球を取り出し、透視を試みた。

直後

「はぁ、はぁぁ・・・・・はぁぁぁぁぁぁっっ・・・・・!!!!!!」

キャスターはビクリと震え、その場に倒れる。

恍惚の表情のまま倒れているキャスターはあまりにも不気味だった。

十数分後、

「────もう、こんな服にも慣れてしまっている自分がとても嫌・・・・うわぁ」

落ち込みながら部屋に戻ってきた志貴はそんなキャスターを見て僅かに顔を引きつらせた。

「どうしようかな・・・・」

流石にそのまま放置というわけにも行かず、キャスターをベッドに運び、志貴は椅子に座る。

「ここの聖杯で願いを叶えるってのはもしかすると無理なのかな・・・」

『よい子の聖杯戦争』を読み返しながら首を傾げる。

読めば読む程おかしな話だ。

共同研究も異例のことだろうが、外部から魔術師を招き入れることを良しとしたこの聖杯戦争。

サーヴァントが要らないのではないかという疑問から次第にサーヴァントが目的であって願いを叶えるというのはただの餌ではないかと思い始めていた。

勿論確証はなく、この冊子を読んで疑問に思っただけの話なのでこれ以上の考えは無駄だと分かっている。

「バゼットさんはこの聖杯戦争について細かく知っているかな・・・」

難しい顔をし、冊子をカバンの中に入れる。

「聞きに行こうかな・・・流石にこの服じゃあ・・・・まあいっか。外に出るわけじゃないし」

短パンに少し大きめのTシャツといった出で立ちの志貴はそのまま部屋を出た。

 

 

ドアがノックされ、バゼットがランサーに目配せをする。

「大丈夫だ。坊やが来ただけのようだ」

ランサーはそう言ってドアを開けた。

「ども、あの、少し聞きたいことがあって・・・・」

「・・・・・・・・あ、ああ。まぁ入ってくれ」

ランサーは一瞬思考停止を起こしたが、すぐに我に返ると志貴を中に入れる。

「お前さん、その格好で良いのか?」

「このフロアには人が来ないのなら良いかなぁって・・・」

「お前なぁ・・・その格好が恐ろしく人を魅了するっ────マスター?」

り〜んせ〜んた〜いせ〜〜〜〜〜〜い

バゼットはハァハァ言いながらジリジリと志貴に近付く。

「ふぇ・・・・」

「ほら、な・・・おい、マスター」

パンッとランサーはバゼットの眼前で柏手を打つ。

「ッア!?────ランサー?」

「・・・・・・・ほら、な?」

「これって、何処にでもある格好だろ思うんだけどなぁ・・・」

「まあ、諦めろ。その美貌はある種の呪いだ」

ランサーは落ち込む志貴の頭をポンポンと軽く叩く。

「う〜・・・」

拗ねる志貴を見てバゼットが再びハァハァと荒い息を吐く。

「怖い・・・・」

「だーっ!!」

「っあ!・・・煩いですね!」

「こいつが怯えてるぞ!?嫌われても良いのか?」

「まさか!」

急にシャキッとするバゼットに志貴は安堵の息を吐く。

「あの、聖杯戦争についても聞きたいのですが、それ以上に聞きたいのは・・・僕は今誰かを連れて逃げているんですか?」

「使い魔4体といると言われています。2体は元々いた夢魔らしいのですが、あと二体はまったく分かっていません。そして協力者もいるらしいです」

「協力者・・・ですか?懸賞金までかかっているのに助けてくれる人がいるんですか?」

「一人は恐らくあの虎頭の方でしょうが・・協力者は複数居るようで、残念ながら協力者を特定できていません」

───アレ?じゃあ僕は帰れたとしても、ジョーさんは帰っていないと?それとあと二体の使い魔って・・・

「ところで、相方はどうした?」

「なんか倒れてたので寝かせてあります」

「ハァ?倒れていた?」

「はい。僕がシャワーを出たら倒れてました」

ランサーは心底疲れ切ったため息を吐く。

「まあ・・・アレはお前を裏切らないから我慢しろ」

「・・・正直言うと、キャスターさんのようなタイプの人達から逃げた結果ここにいるんですけど・・・」

ちょっぴり泣きそうな志貴。

そんな志貴の手をバゼットの手が優しく包む。

「安心してください。私が守ります。姉として」

「え?あ、はい。ありがとうございます・・・」

そう言っているバゼットの表情はデレデレだった。

「マスター・・・表情筋が緩みきってるぞ」

「はっ!───だっ、大丈夫です。戦闘時はきちんとしますから」

志貴は不安に思いながらも小さく頷いた。

コンコンッ

突如、ドアがノックされた。

「「「!!??」」」

気配など感じなかったせいか、ランサーとバゼットはすぐにドアから間合いを取って戦闘態勢を取った。

が、

「ジョーさん?」

志貴は驚きはしたものの、戦闘態勢も何も取らずにドアノブに手を掛けた。

「志貴!」

「チィッ!」

二人が護衛に走る。が

「失礼する───むっ?」

志貴がそれよりも早く扉を開け、タイガージョーが室内に入ってきた。

急制動を掛けようとした二人だったが、勢いは止まるはずもない。

そして

「危機感を持つのは結構だが、志貴のように状況判断と想定が出来てないな」

二人の攻撃はタイガージョーによって完全に止められていた。