「うちのマスターがお姉ちゃんか・・・」
浮かれているバゼットにもう慣れたのか、ランサーは状況を楽しむようにニヤニヤ笑っている。
「四人で行動する時はお姉ちゃん二人にお兄ちゃん一人って事かな・・・あ、そっか。キャスターさんもランサーさんも姿を消せたんだよね」
キャスターとランサーが一瞬、ポカンとした顔をした。
「・・・・・・・・・・・・私も、お姉ちゃん」
「お兄ちゃんか、案外良い響きだな」
互いにウンウンと頷くと、
「まあ、堂々と姿を見せて敵に何か策があるように見せるという手もあります・・・何も知らない人達から見ればその、仲良し姉妹・・・に見えるでしょうし」
キャスターの顔どころか耳まで真っ赤になっている。
「コソコソせずに堂々と出来るのは確かにありがたいな・・・逆にその方が相手も襲いにくいだろうしな」
「ふ、ふふふふふ・・・仲良し姉妹ですか・・・・」
「・・・・・・・・おたくのマスター、本当に大丈夫なの?」
「・・・・・・・・まあ、こいつに会うまではまともに機能していたぞ」
コソコソと話し合うサーヴァント二人。
そして、
「決めました!明日一緒にお買い物に行きましょう!」
いきなりバゼットが吠えた。
「や、服はジョーさんが用意してくれましたから大丈夫で」
「服はあって損する物ではありませんよ。それに街に出て得る情報はなかなか貴重ですよ」
バゼットの企みを察知し、回避しようと試みた志貴だったが、キャスターに止められてしまった。
「えう・・・・」
志貴は視線でランサーに助けを求めたが、
「諦めろ。今のこの二人に何を言っても無駄だ」
見事に駄目出しされた。
暫く閑談の後、ランサーとバゼットは部屋へと戻った。
────どちらかというと警護を申し出て部屋に居座ろうとしたバゼットをランサーが無理矢理引っ張っていったのだが。
「志貴は彼女達をどうするつもりですか?」
「どうもしないよ。助けてくれる人は多い方が有りがたいもん」
「しかし、聖杯戦争は」
「聖杯戦争は最後の一組が願いを叶える権利を持つ、でしょ?」
「そうです」
「でも、そこがおかしいんだ・・・話を聞くと聖杯は願望機でその力を使ってお姉ちゃん達を呼び出したんだよね」
お姉ちゃんという言葉に僅かに反応したキャスターだったが、真面目に話をしている志貴に何かするわけにもいかず、真面目なフリをする。
「はい。私達を召喚する事自体大魔道師の力を持ってしても・・・」
「実は聖杯って、そこで力を使い果たしてない?」
「─────え?」
志貴は『よい子の聖杯戦争』をペラペラとめくる。
「長い時を掛けて力を蓄え、その力を使ってサーヴァント達を召喚させるわけだけど、それ自体がそこまで強大なものならそれで打ち止めなんじゃない?」
「・・・・・・・」
考え込むキャスター。
「それに、サーヴァントを倒して最後に残った一組に・・・って、とても無駄な行為だよね?」
「無駄?」
「うん。お姉ちゃん達には悪いんだけど・・・サーヴァントを7人召喚する力を1つか2つに分散させて使えばそれ以上の奇跡を起こすことが出来ると思うんだけど」
「・・・・・・・・・・」
単純に考えればそうだ。
奇跡を叶えることが争いの元になるのならばサーヴァントシステムは有効。
『聖杯に選ばれた人間』がサーヴァントを使うことが出来るわけなのだから。
しかしその力を無駄に使えば聖杯の出力も落ちるのではないかと志貴は聞いているのだ。
そして志貴は更に妙な引っかかりを感じてはいたが、それを言葉にはしなかった。
志貴の引っ掛かったもの。それは更にサーヴァントシステムの必要性を疑問視する代物だった。
「敗れたサーヴァントが聖杯の中に戻り、それを新たな力として最後に残った二人に奇跡として分配されると考えて・・・」
キャスターの科白に志貴は新たに思った疑問をそのままストップさせる。
「───サーヴァントがもの凄い魔力の塊だとしても、それは聖杯の最大値を超えるわけじゃないと思うよ。それに、サーヴァントを召喚した力は?」
「?」
キャスターは志貴の言いたいことが理解出来ずに首を傾げる。
「サーヴァントの力は聖杯の力でしょ?サーヴァントが魔力の塊ならその魔力は聖杯の物で・・・
例えばサーヴァント1人に振り分けられた魔力100としてこれを七等分すると700だよね、でもそれ以外にサーヴァントを召喚した際に使われた魔力は?ってこと。
これが300ならかなりの無駄にならない?最終的に600の魔力を2分割して二人の願いに充てるとしたら・・・結局サーヴァント召喚分の奇跡しか起こせないことになるよ?」
「それは仮定の話で、志貴の言う方法が正しければ・・・です」
「まあ、何となく思いついたことだから正しいとは思ってないけど、まぁ何か胡散臭いと思っているのは確かだよ」
「胡散臭い・・・確かにそうですね」
「隠匿するのが魔術師の性質なのにわざわざ人を呼んでいるんだからおかしな話だよ。まあこんな事考えずにとりあえず今から降りかかる火の粉を払う準備をしないと」
志貴は小さく背伸びをすると椅子の横に置いていたバッグを開けて中を全て出す。
「うあ・・・・服と下着と・・・うわぁ・・・・」
志貴の手が止まる。
黒のタンクトップと黒い短パン
「寝間着?練習着・・・・まさか、戦闘用?」
インナーウェアも腕に掛かっていた。
「僕こんなの着け・・・・・・・・・・」
ゾクリと悪寒を感じ、志貴は言葉を切り、着替え一式を持って立ち上がった。
「僕、お風呂はいるから」
「私も入ります」
「あ、じゃあお姉ちゃんお先にどうぞ」
「しーちゃんと一緒に入るの」
「や、僕一人で入るから・・・・」
「そんな悲しいこと言わないで・・・さあ、しーちゃん」
「や、やぁぁぁぁ」
後退る志貴に躙り寄るキャスター。
「ッ・・・僕がお風呂入っている間絶対に入らないでよ!」
志貴は大声でそう言うとバスルームに逃げた。