『・・・・すみません。また連絡します。失礼しました』

ドアの向こうから寂しそうな声が聞こえ、ドアからサーヴァントごと去っていく気配がした。

「―――本人、でしたか?」

「さあな・・・もしかするとこれすら演技かも知れねぇし、最悪、操られているかも知れないな」

そう言いながらランサーは聞き耳を立てる。

「・・・キャスターさん。聖杯は欲しくないんだよね?」

「はい。しーちゃんが側にいてくれるなら」

「だからしーちゃんは止めてよ・・・」

「他人行儀にキャスターさんなんて呼ぶからです」

「せめて人前では・・・・」

「えー?だってその方が可愛い・・・いひゃいいひゃいいひゃい」

「わざとでしょ。まだ言いますか?」

「しきちゃんが怖い・・・」

「僕だってもと男なんですから・・・たいして変わらない扱いでしたけど・・・・」

「どんな扱いを受けていたの?」

「最初はウサ耳着けられて・・・暫くして子供の姿にされて・・・気がついたら女性化してて・・・」

「ふふふふ・・・見てみたいなぁ・・・可愛い男の子のしきちゃん」

「しまった!墓穴?!」

「決めました。聖杯戦争参加するわ」

「更に闘争心に火を点けた?!」

「半ズボンの男の子でウサ耳犬耳しっぽフリフリ・・・」

「・・・・・絶対それを却下して元の姿に戻ってやる・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「?何かとんでもないことでも?」

「・・・・・いや、思いっきり本人らしいな。内容は・・・まぁなんだが、キャスターの頬を引っ張ったりしている辺りから正気のようだ」

思いっきり複雑な表情で語るランサーにバゼットは眉を顰めた。

 

 

「エレベーターの中でさっきみたいなセクハラは止めてくださいよ?」

「セクハラとは何ですか?よく分かりません♪」

メディアはニヤニヤ笑いながら僕の手を引き、一瞬のうちに僕を後ろから抱きしめる。

「うわっ!んんんむんっ・・・・・ぁ・・・・」

「ふふふふ・・・・しーちゃん。可愛い」

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

頬や唇をペロッと舐め、メディアはニンマリと笑う。

「そう言えば・・・その眼鏡は魔眼殺しですよね?」

「え?うん・・・こんな姿だからちょっと大きめだけどそうだよ」

「いえいえ・・・そのブカブカ感が萌えポイントなのですよ」

そう言ってメディアは眼鏡を取ろうとした。

「外しちゃ駄目だよ?!僕、これがないと大変なんだから」

僕は眼鏡をギュッと抑え、俯く。

「しーちゃんはどんな魔眼を保っているのか知りたいだけです」

「・・・・虐めない?」

「私はしーちゃんに危害を加える事は絶対にあり得ません」

「僕の眼は・・・直死の魔眼って言うらしいんだ」

「・・・・・え?」

僕の台詞にメディアは固まった。

ドアが開く。

「今、直死の魔眼って・・・そう仰いませんでしたか?」

メディアは降りる気配を見せない。

「うん。ほら、早く出ようよ」

僕はメディアの手を引いてエレベーターから出た。

と、

「マスター。その直死の魔眼。少し確認をしたいのですが・・・・」

メディアさんが真剣な表情でそう言ってきた。

「?うん。良いけど・・・」

あまりにも真剣なメディアさんに僕は思わず頷いた。

僕はメディアさんに手を引かれてホテルのラウンジへと向かった。

「お待ちしておりました。お連れの方がお待ちです」

ラウンジに着いたと同時に係員がそんな事を言う。

「「え?」」

人違いじゃないのかと思ったけど、思いっきり見覚えのある人が見えたのでその言葉を呑み込んで係員の後について歩いた。

「どうしてまた・・・・」

メディアさんは思いっきり苦手意識を持っているっぽい。

「来たか・・・」

六人がけのテーブルにジョーさんが座っていた。

 

 

「ふむ・・・直死の魔眼か」

ジョーさんは腕を組んでそう呟いた。

「・・・・・」

メディアさんは相変わらず警戒色バリバリでジョーさんを見ているけど話を進めるにはソッとしておこう。

「はい。でも、今この姿だとどうなのか確かめてはいないので少し不安で・・・」

「ならばこのナイフは君の持ち物だな」

ジョーさんはそう言って七夜のナイフをテーブルに置いた。

「!!どこでそれを」

「狭間に入った時に拾ったのだ」

「僕にとって形見みたいな物だったんです・・・ありがとうございました」

「では早速試して・・・この灰皿はどうだ?」

「構いませんが・・・」

灰皿を裏返しにしてテーブルの中心に置き、眼鏡を外す。

「くぅっ・・・」

ズキンと一度だけ鈍痛が走る。

───やっぱり、見える。

どんな理屈かは分からないけど、この魔眼は体には関係なく現れる代物かも知れない。

「いきます」

僕は灰皿に見える線を一気になぞる。

ココンッ

軽い音がして灰皿が6つに割れた。

「・・・・・切っ先は数ミリと入っていないな・・・確かに情報通りか」

小さく唸るジョーさん。そして

「・・・・・」

メディアさんは益々険しい顔で灰皿をジッと見つめていた。

「───これならば単体でサーヴァントと渡り合えるな」

納得したように頷いたジョーさんに僕は全力で否定した。

「そんな・・・僕にそこまでの力やスピードはありませんよ」

するとまたあの胡散臭いノートを取りだし、

「その体の状態ならば力は非力だがスピードではかなりアップしているらしいぞ。何でも対アルクェイド用と書かれてある」

・・・・・何か、トンデモナイ台詞が聞こえた。