―――よい子の聖杯戦争って・・・
「まさかこんなお茶目さんだったなんて・・・しかもフルカラーのコピー本で絵入りなんて・・・」
僕はやる気を根こそぎむしり取られた気がした。
「こちらの封筒は・・・」
メディアさんは白い封筒を開封し、中を見る。
「お金と手紙・・・ですね」
「ふぇ?!」
お金という言葉にかなり敏感に反応してしまった。
「もう、しーちゃんったらかなり可愛い反応♪」
「―――どうしてそうテンション高いんですか。しかもさっき僕が言ったこと無視してるし・・・」
「だって・・・しーちゃんの方が可愛いんですもの・・・」
「や、可愛くなくて良いです」
僕は言葉の暴力にちょっぴり泣かされながら白い封筒を受け取った。
封筒はズッシリとした重みがあり、中には札束と手紙が入っていた。
「―――これだけでも充分に破壊力があるよ」
クラクラする頭を押さえながら手紙を開く。
中には―――
『その金は先日当たった宝くじの当選金の一部だ。存分に使い給え』
「当たったの?!」
思わず豪快に突っ込んでしまった。
「こんな大金・・・見たこと無いよ」
声が震えていた。
怖くて封筒の中にいくら入っているか確認できない。
僕は封筒をバッグの中に入れ、閉じた。
「―――早く会いに行かないと・・・」
現実逃避も兼ねて僕はメディアさんの手を引いてそこを出た。
「ああ・・・しーちゃんの手、柔らかい・・・」
「・・・まだ言いますか」
はじめ、手を引いていたのは僕だったのに気付いたらメディアに手を引かれていた。
そしてエレベーターに乗った瞬間、
「にゅふ♪ふふふふ・・・二人っきりで密室」
突然引き込まれて抱きつかれてしまった。
「!?」
「すべすべのお肌に愛らしい目・・・もう何から何まで私好み・・・」
「にゃっ?!にゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
全身をなで回されて、6階に着くまでやられたい放題にされてしまった。
「はぁっ・・・はぁ、はぁっ・・・」
「可愛いのにお胸は結構あってそれがとっても敏感で♪」
『死にそうなくらい恥ずかしいから口に出さないでください』
そう言いたかったのだが、言ったらいったで余計に喜ばせる結果になると分かっているので志貴は出かけた言葉を呑み込み、目的の部屋へと向かった。
「マスター。騙されてねぇか?」
蒼い衣を全身に纏った男が苛立たしげに言う。
「たとえ騙されていたとしてもコトミネの元に行けば彼の言っていたことになる可能性も否定は出来ません。ここは抑えましょう。ランサー」
女性が蒼い衣を纏った男、ランサーをチロリと睨んだ。
「・・・・・・・」
しかし、納得いかないといった顔のランサーに女性は小さく溜め息を吐き、
「コトミネならやりかねないのです・・・決して写真のあの子を見たくてとか個人的に妹にしたいとかそんなんじゃなくて・・・・」
「―――それ以上喋らないでくれ。ボロが出てるぞ」
息ではなく何か別のモノが出てきそうなため息を吐くと、
「ま、マスターがそう言うのなら相手はよほどの食わせ者か・・・ならその判断の方が正しかったんだろうな」
そう言ってドカッと椅子に座った。
と、
「!!」
二人は同時に立ち上がった。
「きやがったようだ」
「・・・戦闘態勢を」
そう言った矢先、
コンコンッ
小さいノック音が聞こえ、
「ごめんくださ〜い。遠野志貴ですが、こちらはバゼットさんのお部屋ですか〜?」
酷く緊張感を削ぐ声が聞こえた。
「志貴。気をつけて下さい。サーヴァントがいます」
メディアさんが険しい表情で部屋を睨む。
相手の闘気が僕の体にビシビシ来ている。
もし迂闊に動いたらすぐにでも攻撃されそうだ。
「あ、そうか・・・もしかして、敵と思われているとか?」
「恐らくは。いかがなされますか?」
戦争と名が付いているだけに気を抜いたら駄目って事か・・・
しかも見えない位置から応対を求めているだけに、相手の方が不利。
「うん・・・・一度引いて出直した方が良いかも知れない」
「そうですね」
メディアさん。えらくアッサリと・・・どこか嬉しそうだし。
名乗ってもサーヴァントが一緒と分かっただけで相手にとって敵と判断されるのは当たり前。
―――申し訳ないけどフロントの人を通じて話をするしかないと思う。
まぁ、それすら疑われかねないので下りる間に考えておこう。
「仕方ないかな・・・僕等も泊まるところを探さないと・・・」
僕は小さく溜め息を吐いて、
「・・・・済みません。また連絡します。失礼しました」
そうドア越しに言ってバゼットさんの部屋を離れた。