「身分の怪しい住所不定な人を泊めてくれるとこ事態無いよなぁ・・・」

トボトボと階段を下る。

「はぁ・・・」

ここら辺の土地勘の全くない身としてはどうしようもない。

「いっそのこと、警察のご厄介になった方・・・・・・却下」

その案は一瞬で却下した。

ならどうするか・・・

うんうん呻りながら歩いていると、

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドゴッッッ!!

車にでも衝突したんじゃないかと思う衝撃と共に僕は何かに跳ね飛ばされた。

 

 

精神的に参っていて考え事をしていたせいでそれをモロに喰らってしまった。

───何?!ラル○タックルでも喰らっちゃった?!

痛みを感じる前にそんなことを思う辺り微妙に余裕かも知れない。

きっと僕の体は錐揉み回転していただろう。

そして、

ドウッッ

「っは!」

思い切り背中から地面に叩き付けられた。

「志貴!?」

慌てるメディアさんに

「お姉ちゃん・・・暫く隠れてて・・・」

僕はそう言ってなんとか起きあがった。

でも体のダメージは半端じゃない。

具体的に言えば都子ちゃんのタックルの2倍ぐらいのダメージだった。

だからまだ立ち上がれる。

これがアルクェイドのタックルなら・・・・・・いや。ネロのあの体当たりの方がマシだから引き合いには出さないでおこう。

にしても・・・

「踏んだり蹴ったりだよ・・・」

半泣きで服に付いた埃を叩いて落とす。

と、

「良い判断だ。志貴よ」

頭上から聞き覚えのある声がした。

「ジョーさん?!」

僕はすぐに上を見る。

シエル先輩っぽく外灯の上には虎頭の人物、ジョーさんが立っていた。

「くっ!」

あ、メディアさんが動いた。

メディアさんは実体化すると同時に何かを放とうとした。が、

「封陣縛止!」

ジョーさんから洒落にならない程の力の渦が巻き起こり、メディアさんの動きを封じた。

「なっ・・?!」

「無駄な争いは好まんのでな・・・志貴よ。サーヴァントを有したと言うことは聖杯戦争に参加すると言うことか?」

「え?どうしてジョーさんが・・・参加はするけど、相手を殺したくはないから少し困っていたんだ」

メディアさんがギョッとした顔して僕を見ている・・・

「ふむ。降りかかる火の粉は払うが無駄な戦いは好まない。そう言うことだな?」

「うん」

その意気や良し!

ジョーさんは満足げに頷くと、僕目掛けて一枚のカードを投げた。

そのカードを受け止めるとカードにはホテルの名前と住所。そしてロッカーのキーがテープで留められていた。

「ジョーさん。これは?」

「それは今回の協力者の滞在するホテルの住所だ。私から君のことは話しておいた。彼女は全面的に協力してくれるとのことだ」

「いつの間にそんな手回しを・・・」

カードをポケットに入れながら呆れ半分で突っ込んだ。

「なに。私の手にはあのアイテムがあるのを忘れて貰っては困る」

「・・・・・・・ああ。あの胡散臭いネタ帳ですか」

「うむ。やはりバッタモノアイテムらしく内容が常に変動しているぞ。それとその鍵はそのホテル内のコインロッカーキーだ。中にある物は全て使いたまえ」

言うだけ言うとジョーさんは風のように去っていった。

 

 

「ふえぇぇぇぇ・・・・・・」

情けない声を上げてしまう。

独りでホテルに入るのはなかなか緊張してしまう。

キャスターさんが付いていてくれているとはいえ、こんな高そうなホテルに知らない人を訪ねるなんて・・・

根っからの小市民な僕としては滅多に入ることのない場所なわけで・・・

少し混乱しながらもフロントの前に立った。

「えっと、えっと・・・こちらの6階の14号室にバゼットさんという方がご滞在していると思うんですけど・・・」

「志貴様でございますね?少々お待ち下さい」

フロントの人ははじめから分かっていたようで、すぐにバゼットさんの部屋に連絡を入れてくれた。

「部屋に来るようにとのことです」

「ありがとうございます」

僕はお礼を言ってエレベーターに向かおうとした時、

『志貴、ロッカーのカギはどうなさいました?』

メディアさんが僕にソッと耳打ちしてくれた。

「あ、忘れてた」

ポケットを漁ってジョーさんから貰ったロッカーキーを取り出し、急いでフロントに戻った。

「あの、コインロッカーはどちらでしょうか」

「はい。手前の階段から下りてすぐの場所に設置されております」

「あ、ありがとうございました」

淀みない即答のせいか逆に僕がどもってしまった。

僕はすぐに階段を下り、コインロッカールームへ向かう。

「・・・いっぱいあって分からない」

「志貴、カギに番号は振られていませんか?」

「―――もしかして、僕は駄目人間?」

言われるまで気付かない自分に少し涙が出そうになった。

チャッ

カギを差し込み、開けると中に入っていたのは黒くて少し大きなボストンバッグだった。

「何が入ってるんだろう・・・」

「危険物ではないようですが」

僕は少しドキドキしながらカバンを開く。

中には衣服と白い封筒。そして「よい子の聖杯戦争」と手書きで書かれたコピー本が入っていた。