「はぁぁぁぁ・・・・」

ため息を一つ吐く。

気がついたら体は少し縮んでいるし。

一緒に飛び込んだはずのジョーさんもいない。

ポケットに入っているお財布の中は諭吉さんが7人。

「・・・・・・七人の諭吉?」

良く分からないけど少し救われた気がした。

「運が良いのか悪いのか・・・」

僕は今までの出来事を振り返って―――

「はぁぁぁぁっ・・・・」

中身が出てしまうんじゃないかと言うほど思い切り溜め息を吐いた。

「もう、何が起きてもきっと平気だと思うな・・・」

そう呟きながら僕は目の前にある石段を眺め、登った。

何故登ろうと思ったのかは分からない。

多分ぼんやりしていたから登った理由を聞かれたらこう言っただろう。

『そこに結構な階段があったから登った』と。

 

 

 

ウサ耳ファイト外伝

TWINラブ

 

 

 

ズクンッ

石段を登って数段。僕の中の何かが脈打つ。

ズクンッ

何なんだろう。

ズクンッ

やっぱり、何か・・・おかしい。

何かが流れ込んで来るというか・・・何かが近付いて来るというか・・・

僕は階段の端に寄って座り込む。

「何かが・・・何かが来る・・・ッ!」

ズグンッ

強力な何かが体を貫き、同時に周囲に風が巻き起こる。

「〜〜〜っ!!」

僕は耐えきれずに目を閉じ、後ろに下がった。

と、風が止み、

「貴女が私のマスターですか?」

声がした。

「ふぇ?」

僕は目を開けてその声の方を向く。

そこには紫のローブを纏った女性が立っていた。

凄く奇麗な女性で、僕はちょっとドキドキしながら答える。

「あの、多分人違いだと思います・・・」

「―――え?」

聞き返されてしまった。

「いや、だから人違いだと思いますけど・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

共に無言―――と言うよりも、どうしようもない雰囲気だった。

「じゃあ、その手の令呪は何ですか?」

女性は僕の手を指さす。

「え?・・・?何だろう」

手には入れ墨のような妙な模様が描かれていた。

「これ―――何なんですか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

拙い・・・途轍もなく拙い雰囲気だ。

「───まぁいいでしょう。貴方は偶然私を呼びだしたと言うことですね?」

「???・・・僕もここに来たばっかりだから分からないんですけど・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

まただ。まただよ・・・

この妙な沈黙が嫌いなんだよ・・・

「えっと・・・じゃあ、今までのことを情報交換するって事で良いですか?」

僕はとりあえず建設的な提案を出した。

 

 

石段に腰掛けてキャスターさんと情報交換をしていた。

「・・・・大変な目に遭われたようですね」

「うん。僕もそう思う」

キャスターさんはベールを脱いで僕の横に座って微笑む。

「聖杯戦争についてはご理解頂けましたか?」

「―――その聖杯さえ手に入れれば僕は元の姿になれるんだよね」

「・・・ええ。残念ながら」

「残念?」

「いえ、何も―――それより私のマスターであることを認めて頂きたいのですが」

「僕そう言う関係はちょっと苦手なんだけど・・・」

―――レンがマスターって口では言いながらも何かに口実をつけて搾り取っていたせいでそう呼ばれるのとそういう関係が怖くなっているなんて言えないしなぁ・・・

「しかし契約だけでもして頂かなければ私は長い間ここに留まることが出来ないのです」「でも僕は魔術師じゃないし・・・」

僕の台詞にキャスターさんが思いっきり複雑な顔をした。

「マスター・・・今の台詞を他の魔術師に言ったら大変なことになりますよ?」

「?」

「今マスターから力を感じます。それも普通の魔術師より強力な力を有しています。そうですね・・・通常の魔術師の3倍以上は。更に奥にも感じられますが・・・今は良いでしょう」

「・・・・・・また改造されていたんだ・・・赤っぽく」

正直洒落にならないほど落ち込んだ。

「落ち込むのは私と契約してからにしてください」

「えぅぅぅっっ・・・」

「さあ!認めてください!私を貴女のサーヴァントにすると」

キャスターさんは僕を押し倒すと組み敷いた挙げ句、僕の頬にその柔らかい手を当てて不適な笑みを浮かべる。

「あ、あの・・・」

「ん?なぁに?」

「契約はするけど・・・お友達と言うことで」

僕は必死に妥協案を出した。

「・・・・・・・・・・・・お友達?」

「うん・・・使い魔とその主じゃなくって、供給はするけど対等な立場って言うか・・・」

「───では、貴女のことはマスターとは呼ばずに・・・『しーちゃん』って「お断りします」え〜?」

思い切り不服そうだし。―――この様子から、本気でそんな感じで呼びそうだからイヤだ。

「じゃあ『しきちゃん』若しくは『志貴』と・・・これ以上は譲りませんよ?」

何をどう譲らないのかは分からないけど、とりあえず呼び方は決まったようだ。

「私のことは『お姉ちゃん』か『メディア』と呼んで下さいね・・・あ、『メディアお姉ちゃん』でもいいかも・・・」

何故だろう・・・キャス、メディアが心なしか浮かれている気がする・・・

名前の件は暫く置いておくことにして今更気付いた問題があった。

「で、今ちょっと困ったことがあるんだけど・・・」

「何か?」

「うん・・・今夜、どこに泊まろう・・・」

「あ・・・・・・・・・」

この先のこと以上の問題。これこそが一番の問題事項だった。