あの時俺は、一度死んだのだと思う。
駆け回る炎が闇を照らし
這い回る熱風が逃げ惑う人々を大地に溶かし、縫いつける。
家々はみなそれらに蹂躙され原形を留めるものはなかった。
そこは地獄―――
熱に焼かれ有らん限りの叫び声を上げながら絶命する者
炎にまかれ、叫ぶ暇なく生きたまま火葬された者
子供を守ろうと我が身を盾にしたが瓦礫に共に潰された母子
ぐちゃぐちゃに潰れた足をズルズルと引きずりながらチロチロと蛇のように這い寄ってくる炎から必死に逃げる老人
息を吸った瞬間に熱風に気管を焼かれ、焼けた大地を転がり回る青年
そんな中、俺はおぼつかない足取りで歩いていた。
限界なんてとうに来ていた。
熱風に煽られ体は火傷だらけ。
歩く度に焼けるような熱さが足の裏から伝わる。
体は水を求めるがそれ以上にこの場から逃げたくてただ、そこを進んでいた。
動ける俺に向かってあちこちから助けを求める声がした。
子供らしきモノを抱きかかえ、「この子だけは」と叫ぶモノ。
「何でもやるから助けてくれ」そう言いながら瓦礫の中から上半身だけ出して助けを求めるモノ。
ひと、ヒト、人、ヒと、ひト―――――――――
自分だって生き残ろうと必死で歩いているのだからそれらに体を向けることは出来ない。
今倒れたら起きあがれない。
俺は全てのオトを無視してただ進む。
ただの火災ではない。
これは―――この地獄は―――
足がもつれ、転倒した。
足が動かない。
限界だ。
子供に出来ることはこんなモノか
なんて――――――非力
大地が熱い。
体をジワジワと焼いていく。
動けない。
俺はそれでも生きる為に動いた。
その時、近くで人の気配がした。