俺は疲れていた。
疲れ果て、手にしている荷物も地面に着かんばかりの勢いだった。
「何故、だ・・・」
その表情は勝ちを疑わなかった敗残兵の表情に似ているだろう。
肩から下げられた紙袋にはどっさりとチョコやクッキーが入っていた。
「・・・何故だ」
訳が分からない。
「何故俺が好かれる?」
まったくと言っていい程分からない───
BURST!!
俺は特にこれと言った事をした記憶はない。
困っている奴に少し手を貸してやった事はあるが、それが好かれるような行為だとは思えない。
分からない。
イベントに浮かれているのが女学生だけなら兎も角、教師まで何故俺にそれを寄越すのかが特に分からない。
まあ、いい。
くれる物は貰う。返すような事はしないと前もって言ってある。
俺一人で食う事はまず不可能。
ならば有間家に三分の二は置いておくとしよう。
そして残りは橙子の事務所に置いておけば問題はない。
俺は今後取るべき行動を脳内で反芻し、家路を急いだ。
青子は気怠げな顔で商店街を歩く。
その時、喋りながら歩いていた女生徒とすれ違った。
そして聞き覚えのある姓を耳にし、ピクリと反応した。
「・・・っぱ、遠野くんって素っ気ないけど紳士的よね」
「そうそう。それに気配りも上手だし・・・あ、チョコ渡した?」
「勿論よ!・・・でも、あれでずっとフリーなんだから不思議よね」
「そうよねー。でも、それが孤高の騎士って感じで良いのよ。『済まないが俺はこのプレゼントに対して礼を言う事しかできない』な〜んて言われたらもう!」
「戸惑った遠野くん。写真撮りたかったなぁ〜」
そこまで聞き、青子は思案する。
───志貴は今チョコは一杯一杯・・・って事は・・・
何か良い事を思いついたのか青子は早足で商店街を後にした。
「ぐ、何て・・・迂闊・・・」
俺を取り巻く状況は最悪の状態だった。
「考えてなかった・・・」
一応家族だったと言うことを失念していた。
都古と啓子さんからもチョコを喰らってしまった。
新手の嫌がらせか?!
目の前で食わないと許さないと言った辺り本気で恐ろしい。
それに―――時南医院からの電話も・・・
朱鷺恵さんからの校舎裏への呼び出し・・・
本気でヤられるかと思った。
甘い物=ハネムーン
という訳の分からない方程式が出来上がっているらしく俺に迫ってきたからな・・・
爺さんは爺さんで疲れ切った顔して黄昏れていたし。
ありゃ先が短そうだ。
死因はストレスによる心疾患とかだろう。
―――まぁこれ以上思い出すのは止そう。
俺はいつも通り事務所へと入った。
僅かばかりの覚悟を決めて・・・