穏やかな午後
志貴がのんびりと中庭で昼寝でもしようかと思案しているところに青崎蒼子がやってきた。
「確認したいことがあるから志貴の自室に行きましょうか」
会って早々そんなことを言われた志貴だが、天性のお人好しか疑うことを知らないのか青子を部屋に通した。
それが大変なことになるとは知らずに
青子vs志貴 果てしなき暴走・・・か?
「志貴が持っている魔眼は二つ。一つは七夜の血と最も相性の良い『直死の魔眼』でもう一つが天然の魔眼『女殺の魔眼』よね」
突然先生は真顔でそんなことを宣った。
「直死はまだしも女殺って・・・確認したい事ってそれですか?」
んなモン無い無い・・・
「女殺の魔眼に関しては魔眼殺しの眼鏡ですらアクセントになってしまうのが難点ねぇ・・・」
ホウッとため息を吐いて熱い視線を俺に向ける先生。
―――何かいつものパターンになりつつあるけど・・・
しかし俺もこのパターンに嵌るつもりはない。
「志貴、試しに私の目をジッと見つめてみて」
「・・・はぁ」
言われた通りに先生をジッと見つめてみる。
どうしてだろう・・・な〜んか先生が少しずつ近付いているような・・・
そう考えた瞬間に俺は本能が発した危機回避行動シグナルを受け取り重心をかけていた右足の踵を軸にグルッと反転した。
そして
「チッ!」
先生がその瞬間に俺のいたところにダイヴしていた。
「ヒイイイイッ!!」
俺はすぐさま入り口から逃げ出し、屋敷に設置されている対アルク&シエル先輩専用のシャッターボタンを押す。
勿論シャッターがおりる直前に俺は窓から飛び降りた。
ガシャンッ!!
何とも重厚で頼もしい音と共にシャッターは完全に閉じた。
窓という窓全てにそのシャッターは施されており、T−ウイルスに汚染された化け物でも暫くは出れないだろう。
だけど相手は先生だ。
こんなのは時間稼ぎにもならないかも知れない。
俺は全力で屋敷から離れへ向かおうとした。
しかしよく考えると俺の逃げそうな場所は読まれているに違いない。
かといって屋敷内に戻ることは自殺行為だ。
一番俺が行きそうにない場所・・・・・・
俺は屋敷から脱出し、一路時南医院へと向かった。
「何じゃ血相を変えて。さては妹の胸の話をして逃げてきたな?」
「―――会って第一声がそれかよじーさん・・・」
時南医院の玄関先に居たこの家の主、時南宗玄は志貴が来るなり顔をしかめた。
「お前さんなら有り得る事じゃからな」
「――――――」
志貴は数回ほどその経験をしていただけに言い返せなかった。
「まぁ、大方似たようなことじゃろ?匿えと・・・」
「秋葉絡みじゃないんだけどね・・・2〜3時間だけ匿って貰えないかな・・・と」
フム。と納得した表情をしたが、宗玄は表情を曇らせ
「ワシは今から出かけるところじゃ。家には朱鷺恵しかおらんからなぁ・・・」
その台詞に志貴は顔を引きつらせた。
宗玄の娘、朱鷺恵は志貴にとって優しい姉のような存在であったが、ごく稀に志貴に対して暴走するため、志貴は極力二人で居るのを避けていた。
その暴走とは志貴を見る目が怪しくなり、最後には襲いかかってくるのだ。
要はいつものメンバーと同じ事だ。
「え?マジ?」
「大マジじゃ。―――良いのか?」
宗玄は確認をとってきた。
「――――――――――――――――――遠慮「あら志貴君」」
「・・・トキエサン」
恐怖のためか志貴の声が声としてギリギリの発声になっていた。
「私のために来てくれたの?」
何故か朱鷺恵の息が荒い。
「・・・じいさん」
助けを求めるように宗玄の顔を見たが暗い表情で首を横に振った。
「手がつけられんよ・・・」
「どうしたの?上がっていかないの?」
穏やかな口調だが目は見開かれ、瞬き一つせずに志貴を見ている。
「い、いえ・・・ちょっと顔を見に来ただけですから・・・もう帰ります」
志貴は逃げ出した!
「影縛り」
朱鷺恵はどこからか針を取り出し、志貴の影に投げ刺した。
「逃がさないわよ・・・私の志貴君・・・」
しかし回り込まれた!
「何処でそんな技術を覚えたんですか・・・」
半泣きの志貴に朱鷺恵は怪しげな笑みを浮かべる。
「志貴君・・・その綺麗な目は私以外を見てはいけないの・・・」
「先生ッ!?何か物凄く悪化してますがっ?!」
宗玄に助けを求めようと志貴は辺りを見回したが、
「逃げられた・・・」
既に宗玄は居なかった。
「体の自由を奪って・・・っふふふ・・・・」
顔を赤らめながらジュルリと舌なめずりをする朱鷺恵に志貴は心底身の危険を感じた。
志貴が諦めかけたその時、
「私が今回の主役だと思ったけど・・・私の志貴に何してるの?」
横からそんな声がした。